個人・組織・社会に変化をもたらすプラットフォーム〜新世代エイジョカレッジの事例〜

2018.4.11

2018.4.11 ChangeWAVE

2018年2月2日、ChangeWAVE副代表の藤原が、「WLB & 多様性 推進・研究プロジェクト 2017年度 第6回研究会」にて、「個人・組織・社会に変化をもたらすプラットフォーム〜新世代エイジョカレッジの事例〜」と題した講演を行いました。

会の前半に行われた営業職に関する研究発表を受け、「新世代エイジョカレッジ(以下、エイカレ)」のご紹介と、4年間の活動でどのようなことをやってきたのか、事例としてお話ししました。

■エイカレが目指すもの

エイカレのプロジェクトがスタートしたのは2014年。
とある会社からのお問い合わせから始まりました。

それは、営業職の女性が結婚・出産などのライフイベントをキッカケに、営業部門から離れる・退職してしまう。手を打つならライフイベントの前にやる必要があるけど、具体的にどうすればいいのか、という課題についてのご相談でした。

この課題は、ご相談いただいた企業だけの話ではありません。
そこで、他の企業にもお声がけをし、企画チームが立ち上がりました。こうして集まった7社が、最初の立ち上げに携わった企業です。

メンバーはダイバー推進室長、人事部長クラスの方々。彼らが先頭を切ってこの課題を解決したいということで、定例会を行ない、事務局を運営しています。

エイカレが目指すこととして、営業部門で女性が活躍するために、具体的な一石を投じたいと考えています。目に見える一歩を、女性たち自身に踏んでもらいたい。彼女たちに幅広いネットワークを作ってもらえるようなプラットフォームにしたい。
そして、いわゆるダイバーシティの先進企業がやっているからこそ、商習慣を変えたいという話も出ています。

■エイカレの立ち上げ期: 2014年(1期)・2015年(2期)「何が本質課題?」

中央大学にて講演

ここから4年間の取り組みを、時系列に沿ってご紹介します。

まず立ち上げ期は、そもそも何が本質課題なのかすら分かっていませんでした。
成績優秀な営業女性たちが、なぜライフイベントを目の前にして去ってしまうのか。その問いに対する答えが分からなかったのです。
それなら本人たちに聞いてみよう、解決させようというのが、1・2期の取り組みでした。

プログラムの概要として、まず参加者の選出は以下の基準を設けました。

  • 営業部門で高いパフォーマンスを発揮している女性
  • 営業部門に実際に影響力があるような方
  • 将来のリーダー候補

1社5人くらいの小さな規模でスタートしました。
しかしこれだけ業種も人材育成のスピードもバラバラなので、対象者選定の統一基準を決めきれませんでした。唯一決めたのが「管理職の2歩手前」。1歩手前ではもう本人も準備段階なので遅いからです。

エイカレの狙いは以下3つの枠組みで考えました。

1)本人にとって

  • 自らが「考動く」――考えながら動ける人になる
  • 良質なネットワークを培う
  • ビジネスパーソンとしてブレークスルーする

2)企業にとって

  • 女性活躍推進の取り組みのヒントにする
  • コア人材を育成する
  • 成果を社内に還流することで、全社を巻き込むz

3)社会にとって

  • ダイバーシティ先進企業が協働することで、女性活躍の現状に一石を投じるような活動にする

全体のスケジュールは、異業種でチームを組んで(7人×5チーム)、1泊2日で自分たちの会社の状況や、自分は何に悩んでいるのかなどを共有し合うところからスタート。

チームアップ後、営業を続けられない本質課題は何なのかを問いとして持って分科会活動を行い、その結果を中間プレゼンで各社の営業部長クラスに提言しました。
そこで資料の作り方からプレゼンの仕方まで、たくさんダメ出しをされます。もちろん、彼女たちにとって、それもすごく良い経験になったはずです。

最終提言は各社の社長・役員の皆さまの前で発表をするため、ものすごい緊張感がありますが、これもすごく良い場になる、こんな立て付けで1〜2期は実施しました。

プログラム終了後の参加者アンケートでは、満足度が非常に高く、自身の変化があったと答える方が大多数を占めました。

彼女たちの中には、忙しい営業時間を割いて集められ、かつ別に管理職になりたいわけではなかったり、女性活躍とか言われたくなかったりする方も多く、なぜ参加しなければならないのか、エイカレをポジティブに捉える人はほとんどいませんでした。

しかし、半年間のチームアップや分科会活動などを経て、キャリアに対して非常に前向きに捉えられるようになったり、管理職になってもいいかもしれないと思えるようになったり、営業の魅力を再認識していきます。

1〜2期まで、35名×2期=70名の営業女性とこのプロジェクトをやってきて、本質課題は2つに集約されるということがわかりました。
1つは「女性は営業を続けられないという本人および周りの思い込み」。周り=上司、同僚、顧客ですね。
もう1つは、「営業職の長時間労働」。

この2つを解決しない限り、課題解決は難しいという結論に至りました。

■エイカレの拡大期2016年(3期)

前述の2つの本質課題は、7社だけで解決しようとしても難しい。
そこで、3期はもっと社会的なムーブメントにする必要があると考え、フォーラム→実証実験→サミットと、プロジェクトの立て付けを変えました。

1〜2期は35人を半年間のうち、約5〜6日間終日集めてやっていましたが、さらに人数を増やそうと考えると、この日数を拘束するのは現実的ではありません。
そこで、極力日数を減らし、でもインパクトがある、かつ各社に持ち帰ってもらうものがかなりあるような仕立てにしなければなりません。
そうしてできた枠組みで、20社200名と参加企業を大幅に拡大しました。

まずフォーラムの2日間で、「営業は続けられない」という本人たちの思い込みを徹底的に取り外すことにチャレンジしました。
実際に何に悩んでいるのかを異業種のメンバーと深堀りし、「やっぱり営業が好きなんだ」「ライフイベントによって営業スタイルが変わっても、続けていけるのでは?」と本人たちに気づかせます。その上で、60歳までのキャリアプランを描いてもらいました。

2日目の後半には、もう1つの課題である長時間労働について、各社毎のチームになって半年間の生産性を上げるための実証実験についてプランニングしてもらいました。

実証実験は7〜11月の間で最低1ヶ月間行います(企業毎に繁忙期が異なるため)。
その際、せっかく異業種のメンバーが集まっているので、チーム毎にバディ制を取り入れました。例えばリクルートとサントリー、日本郵便とファミリーマートのような形で、全く異なる業界でバディチームを組みます。
実証実験の間、まず計画段階でアドバイスし合い、実験結果が出たタイミングでもアドバイス。他社という違う視点をチームに取り入れました。

最後に行なうサミットでは、44個の実証実験のうち優秀な成果を出したファイナリストのチームだけが発表するという立て付けです。
実証実験はほとんどのチームが実施。参加20社の事務局全員で全ての実験結果について審査を行います。それを通過した4チームがファイナリストとして選出されました。

サミットの結果、2016年度はキリンの「なりキリンママ」というチームが大賞を受賞。
これは架空のパートナー、子どもの名前を付け、1ヶ月間ママになりきるというもの。

3期はエイカレのフォーマットを変えたこともあり、さまざまなメディアに取り上げていただきました。エイカレのプロジェクトだけでなく、「なりキリンママ」の単独取材も多く、キリンには各方面からいまだに取材依頼をいただいているそうです。

最初はたった5人の動きでした。現場の反対も大きかったようですが、本人たちの「やりきりたい」という思いが勝り、徐々に上司や同僚も巻き込まれていきました。
その結果、正式に全社展開が決まるなど、大きな動きにつながっています。

■エイカレの拡大・進化期:2017年(4期)

4期にあたる2017年度は、2つの本質課題を解決するのは継続するものの、2016年度が終わった際に「顧客が営業に何を求めているのか?」を追求したいという声があがりました。

この要望は2016年度のサントリーのチームの提言がキッカケでした。
お酒・飲食業界なので、顧客先の店舗がやっている時間も含め、勤務時間はあってないようなもの。だから自分たちだけが変わろうと思っても変われない。
そこで彼女たちは自分の顧客に徹底的にインタビューを実施しました。「自分たちの働き方をどうしていきたいか?」「今後自分たちに何を求めるか?」など、40社くらいにヒアリングをし、自分たちだけでなく顧客と共に手を取り合って変えていかなければ、業界全体が変わっていくのは難しいという提言でした。

非常に本質的な提言だったため、4期は顧客が求める営業になることも追求したいということで、自分たちの生産性を高める働き方の実現と、顧客に新たな価値を返すことの両輪を実現するためのモデルを生み出すことを狙って「次世代型営業モデルの創出」というテーマに決まりました。

3期の立て付けを踏襲しつつ、「異業種交流提言プログラム」という、完全に異業種のチームで同じテーマについて提言をする1〜2期の立て付けも復活させました。フォーラムの参加者とは完全に別です。
最終的にサミットで、それぞれの部門からファイナリストが最終提言に進む形になっています。

4期の参加企業はのべ32社。3期よりさらに拡大しました。
実証実験は38個。

サミットは2018年2月16日に実施予定(すでに終了しています。レポートはコチラ)。

サミットでの仕掛けは、管理職やメディアを巻き込んでいること。
200人の女性たちだけの会では広がらないので、同じくらいの人数、彼女たちの上司にも参加していただきました。かつ、審査員として各社の経営層の方々にも参加いただきます。

この場で複数の事例を聞き、自分の会社が遅れている/進んでいるなど、さまざまな刺激を受けて自社に持ち帰っていただくということを意図して、このような仕立てにしました。
また、メディアに取材をしてもらうことで自社の動きを社内外にアピールすることも狙いました。

エイカレ実行委員では参加者の提言を実現したいと考え、まず1つ目に「エイジョ的ライフキャリアデザインシート」を制作しました。
これは2期の参加者が考案したもので、ライフプランを記入してからキャリアプランを記入するなど、エイジョならではの書く順番にもこだわったシートです。
これを事務局で引き取り、一般発売し世の中に広めていこうとしています。

→ライフキャリアデザインシート販売フォーム

また、2つ目は「Hug(はぐ)マーク」のリリースです。こちらは2016年大賞を受賞したチームによる提言を形にしたものです。

→「Hugマーク」ダウンロードリンク

チェンジウェーブ副代表 藤原智子

■個人・組織・社会に変化をもたらす仕掛けのポイント

1〜4期を通じて起きた変化を、本人・企業・社会に分けてまとめました。

1)本人にとって

  • 実際に管理職になった女性が多い。営業を続けている人はもちろん、子どもを生んで復帰しても営業を続けたい、管理職になりたいという声も多数挙がった
  • ロールモデルがいないから、自分たちが新たなモデルになりたいという覚悟を持った女性も多い。
  • 公私共に非常に良いネットワークを築けた。
  • 自分たちが会社を、世の中を変えられると思って、継続して行動している。

2)企業にとって

  • 「女性を活かしきれていないことが分かりました」という役員のコメントが多数聞かれた。
  • 覚悟と意志を持った人材育成ができている。
  • 複数の解決策のヒントを教授できている。これは延べ80以上の実証実験結果があり、事務局内のつながりもあるため、お互いに深掘りして共有し合うことも可能。
  • 外圧を使って、社内変革が非常に加速した。

3)社会にとって

  • 非常に高い関心が寄せられている(企業からの問い合わせだけでなく、メディアからの問い合わせも含む)。
  • 社会課題の解決策の量産場。実証実験結果こそが事実なので、それをいかに増やしていくか。

本人・企業・社会、3方向同時に変化させる仕掛けのポイントは4つあります。

1つ目は、何より本人たちの意志を尊重すること。
事務局から働きかけて、本当は何をやりたいのか?に気づいてもらい、実験の場を与える。反対に、あまり介入しすぎないようにしました。

2つ目は「異業種」。
自社以外から新たな気づきを得られるような仕掛けがあったり、参加いただいている30社の事務局の皆さまの当事者意識の高さだったりが重要でした。

そして、3つ目のポイントが「データ」。実証実験の結果と、『エイカレ白書』のようなもの。

4つ目のポイントは「外圧を上手く使う」。
有識者の方々を巻き込みながらムーブメントに仕立てていくこと。
そして、メディアによる報道があることで、自分たちの会社がどういう会社なのかを世に出すことにもなるので、それも本気度を高める仕掛けになっていました。

さらに営業女性たちは、もともと数字で評価されることに慣れているため、「大賞」に向かってエンジンがかかります。その競争原理を仕組みの中に入れることで、大きな変化を生むことができました。

この4つのポイントを回しながら、今後もエイカレは進化していきます。
来年も同じような立て付けでやる予定なので、ご興味があればぜひお問い合わせください。


■エイカレから起きるムーブメント

2017年度は、エイカレサミットが複数のメディアから取材を受けただけでなく、参加企業からも積極的な情報発信をしてくださいました。以下にご紹介します(五十音順)。

  • 新日鉄住金ソリューションズ様:プレスリリース配信、複数メディアに記事掲載
  • 日本郵便様:社内誌に掲載
  • 日本イーライリリー様:プレスリリース配信、雑誌に記事掲載、メディアよりインタビュー取材
  • リコー・ジャパン様:自社カタログ等への掲載、メディアよりインタビュー取材

エイジョたちのチャレンジに、各社の人事・ダイバーシティ推進・営業組織の事務局をはじめとした組織が応え、社会に広がる。
このエイカレのムーブメントをさらに大きなものにしていくために、ChangeWAVEはこれからも伴走し続けていきます。

→新世代エイジョカレッジ 公式サイト

ChangeWAVE

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