人工知能の導入で人の働き方は変わるのか

2017.10.31

2017.10.31 佐々木 裕子
代表取締役社長

労働人口が減少する中、人工知能(AI)の導入による生産性向上が期待される一方で、人間の仕事がAIに奪われるのではないか、という声も聞かれます。
人の未来はAIの進化によってどう変わるのでしょうか。「人工知能は私たちを滅ぼすのか」の著者、児玉哲彦氏とチェンジウェーブ代表・佐々木裕子の対談で考えます。

※この対談は、2017年10月10日に開催されたセミナー「人工知能は私たちを滅ぼすのか」の第2部より抜粋、再構成したものです。


■人工知能と労働力について、本気の議論が始まっている


佐々木裕子(以下、佐々木):
私は変革屋をしていて、人や組織の課題解決や人材育成などをさせていただくことが多いんですけれども、大企業の経営陣が「人工知能の導入によって、人材育成や採用を変えなくてはいけないかもしれない」と本気で議論し始めているのを今、目の当たりにしています。
実は私、21世紀はどんな時代で、その時代を生き抜く力とは何なのか、という本を2014年に書きました。その時にテクノロジーについても調べたんですが、この2、3年は当時想定もしないようなスピードでいろんなことが起きている気がします。

児玉哲彦氏(以下、児玉):
そうですね。例えば技術の分野では、画像に写っているものを機械に理解させる、音声を認識してちゃんと文章に起こすなどといったことは、ほんの5年前でも夢物語でした。ちょうど2012年くらいが分水嶺というのか、単純に進化していったら、20年から30年、もっとかかるんじゃないかと言われていたことが、もうすでに起こっている。この5年くらいの短期間で圧倒的なレベルに来ています。

佐々木:
今後、進化はさらに加速していくんでしょうか?

児玉:
AIという独立した技術が単体で世の中を変えるのではなく、色々な物の制御、情報処理にAIが入ってくるというのが今、重要なポイントです。ほとんどすべての産業にインパクトがありますね。
中でも、大きいのは移動体でしょうか。車、ドローンなどのコントロールが自動でできるというのは今、非常に面白い分野です。それが入って街のインフラが変わっていくとか、まちづくりが変わっていくとか、あるいは流通、小売り業が変わっていくとか……。
「技術的に可能」と「実用レベル」には大きなかい離がありますが、実用レベルに入ってきたものがどうなっていくのか、ですね。

佐々木:
移動体といってもトラックからバス、タクシーなど、たくさんありますよね。何が一番影響を受けるんですか?

児玉:
それをコストだと考えているところだと思います。運送とか、人間が移動する分野というのは、それが楽しみにもなればコストにもなるので、ドライブのような楽しみで行うものはなかなか瞬間的にはリプレイスされないんです。
ただ、そこを大変なコストだと感じていて、しかも人間が運転するとむしろ事故が起きる可能性があるとなれば、経済合理性を考えてAIに置き換えていく。経済的なインセンティブで順序はかなり決まってくるのではないかと思います。

■AIに置き換えられない、人間にとって重要な役割とは

佐々木:
ホワイトカラーの代替性についてはどうでしょうか。士業のような専門知識が必要なビジネスや銀行などでも、専門性の高い人材を育成するより、ひょっとしたら全部AIのほうが効率が良いのではないかという議論がされています。

児玉:
例えば、法務関連で、意思決定を伴わないリサーチ業務などは置き換えられる可能性が高いと言われています。法律の世界は、まず六法全書を覚えてそれをリソースに判断をする。過去の判例などもインプットしますが、逆に言うとデータ設定が決まっているから機械処理しやすい。ある程度のところまでは、関連した判例、法規を見つけるとか、価値判断の入らない情報処理です。しかし、そこから先の、量刑を決めるとか、価値判断の部分に関しては非常に置き換えにくい。業務に2つの分野があるわけです。

また、経済の分野で言えば、定型化できる部分は大きいはずです。クリエイティビティを発揮すべきではない、数字を作っちゃいけない仕事はどう考えても機械にやらせた方がいい。ただ、ロジックの検証は誰がするのか、ルールは誰がどう設計するのか、といった専門性分野は残ります。このように仕事の二極化が起こってくるのではないかと考えています。

基本的になかなか置き換えにくいのは、

  • 組織の構築、運営、事業の遂行といったマネジメントの分野
  • これまでにないアイデアや斬新な表現を創出するクリエイティビティの分野
  • ハイレベルで、事業の目的、理念や時代の設計をするような価値判断の分野

こうして考えていくと、非常に残りそうなのは「何を目指して、何を実現したくてやっていくのか」、そういうところは人間のすごく本質的な役割として求められるようになっているのかなと思っています。合理性という部分が機械でできるようになってしまうと、価値観とか感性の領域が人間にとってすごく重要なのではないか、と。

佐々木:
「何をやりたいのか」というウィルを持つのは人間が最後にやるべきことで、そこに価値があるということ。また、合理性を超えた先の感性がすごく大事だということにすごく共感します。今、自分が変革をやっている中でも同じ結論に着いています。

■グローバル化時代に生き抜く力とは

児玉:
一方、我々が考えなくてはいけないのは、労働力のグローバル競争です。
世界的には今、ナショナリズムが高まっている状況を皆さん感じられていると思います。近年のグローバリゼーションによる競争激化への抵抗です。日本はある面では恵まれた環境にあって、個人レベルではあまり競争にさらされていない。言語などの圧倒的バリアがあるからです。しかし、産業単位、事業単位で言うと直接ぶつかっていかなくてはならない。
私が今仕事をしている相手はほとんどインド人です。アメリカの会社でやっていますが、アメリカのオフィスにもインド人しかいない。少し中国人がいて、アングロサクソン系はマイナー、みたいなことになっています。そしてインド人は皆だいたいIIT、インド工科大学を出ている。インド人でITの世界で身を立てようとする人はIITに行きたがるんですけど、世界最高のITの学府になっていて、MIT(マサチューセッツ工科大学)は滑り止めだ、って言うんです。

佐々木:
それ、私もインドで聞いたことがあります。

児玉:
そのくらいの人たちと一緒に仕事をする、場合によっては競争しなくてはならない。つまり競争、競合の世界になっていきます。
インターネットが普及していない時代なら、何をやっても自分が一番、ムラで一番できる、みたいな気持ちでいるわけです。でも、本当の競争の世界になってしまったら大変ですよね。例えば、AIのライブラリーを作ろう、と言っても、既にGoogleではタダで配られていたりする。何が言いたいか、というと、ある基準の世界の中でやろうとすると、インドの天才からGoogleのエンジニアから誰から、世界中と戦わなければならない。非常にしんどいです。

佐々木:
ある社会的な物差しでやろうとすると、ということですね。

児玉:
はい。その中でも戦っていける、勝てる人はいるでしょうけれど、では、社会の何パーセントくらいの人がそこでやれるのか。面白いのは、例えばウェブデザインとか、一般的なことで世界一、日本一になろうとすると大変ですが、じゃあVRやろう、とかロボットやろう、となると、誰も他にやる人がいない。大きな商売にならないので、やりたがる人がいない、すごくニッチです。
で、こんなニッチなのやれる会社ないかな、とお客さんが考えた時に、私の会社を思い出してくれる。おかげさまで営業を一切せずにやれています。
しかも今は、そうしたニーズにマッチングしてくれる仕組みをITが提供してくれます。私の会社は電話番号、メールアドレス、インプットフォーム、一切置きません。そうするとFacebookメッセージでしか仕事がこない。でも、これで私を発見してコンタクトしてくれるし、それに絞ってしまった方がいい。

みんなと同じことやっていて70点とか80点だと、検索.の一番上には出てきませんよね。一番不要になってしまう。グローバル化時代の考え方のひとつとして、全然違うバイアスのあることをしていた方が逆説的に価値が高まるし、発見されやすいんです。

佐々木:
特に、こういう時代だから、ということですよね。

児玉:
ある価値軸だけでやっている中にいる方がリスキーだな、と思っています。私は会社には全然関係なく活動をしていますが、それがものすごく自分にとっては「価値あること」なんですね。会社の仕事は会社の仕事で、ある目的に向かってやるわけですが、そこではないところに自分の想いとして、「ITが本当に社会を変革するようなツールになるように」というか、会社や事業にとじこもらず、もっと広いところに影響を及ぼせるものだという想いがあってやっています。

佐々木:
そうですよね。チェンジウェーブでも、これからの時代の新たな変化の波は、「人の想い」と「多様性の中の化学反応」によって生まれる、という信念で取り組んでいるのですが、こういう時代だからこそ、やはりその2軸が加速度的に重要になってくるんだな、と改めて深く共感しました。児玉さん、本日はありがとうございました。

児玉哲彦 氏
慶應義塾大学でモバイル、IoTの研究に取り組む。
ARアプリ「セカイカメラ」「tab」、モバイルキャリア「フリービットモバイル」の端末およびサービスの開発、設計に携わるなど、UX、UI設計、VR、AR、ロボットのコンテンツ開発などを行い、現在はITサービス企業で人工知能関連製品の開発マネージャーを務める。
著書に 「人工知能は私たちを滅ぼすのか-計算機が神になる100年の物語」「IoTは“三河屋さん”である-IoTビジネスの教科書」

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