ムーブメントの起こし方(後編)【Yahoo!アカデミア 伊藤羊一 × チェンジウェーブ佐々木】

2019.9.10

2019.9.10 ChangeWAVE

前回は伊藤羊一さんの著書『1分で話せ』の大ヒットのメカニズムから、いま求められている「Why So?」――「伝える」スキルが重視される時代の流れを追ってきました。
後編では世の中全体に視点を移し、変革を起こすメカニズムを探っていきます。

前編はこちら https://changewave.co.jp/2019/07/01/youichi-ito-01/

【伊藤羊一さんプロフィール】

ヤフー株式会社 コーポレートエバンジェリスト/Yahoo!アカデミア学長/株式会社ウェイウェイ 代表取締役
1990年日本興業銀行入行、企業金融、企業再生支援などに従事後、2003年プラス株式会社に転じ、流通カンパニーにて物流再編、マーケティング、事業再編・再生を担当。2012年執行役員ヴァイスプレジデントとして、事業全般を統括。2015年4月ヤフー株式会社に転じ、企業内大学Yahoo!アカデミア学長として、次世代リーダー育成を行う。他、グロービス経営大学院客員教授や、KDDI ∞ Labo、IBM Blue Hub、MUFG Dijitalアクセラレーター、Code Republicなど、さまざまなアクセラレータープログラムにて、スタートアップのスキル向上にも注力。

あらゆる仕事に共通する「普遍的なメッセージ」がある


伊藤羊一氏

――前回はコミュニケーションや変革における普遍的なものは何か? というお話でした。仕事や世の中全体に広げると、この「普遍性」は何だと思いますか?

伊藤羊一氏(以下、伊藤氏):
僕はいろいろな仕事をしてきて、新規事業もあれば人に教える仕事もあって、いつも普遍性があるのか不安だったんです。

でも最近、実はメッセージは全部同じなのではと思っていて。僕自身は1人だしね。普遍性をOSがとするなら、UIが変革オリエンテッド(志向)でも、コミュニケーションオリエンテッドでも、OSは変わらないというか。

佐々木:
基本的に世の中の変革は、誰かが自分の意思で「変えたい」と思って一歩を踏み出さないと起きません。また誰かひとりだけで変革が完遂することはほぼ無いので、誰かに話して協力を仰ぎ、共感してもらってチームを作る必要があります。
それがどんどん拡散していくことでしか、世の中は変わらないと考えています。羊一さんがやりたいことと、おそらく同じですよね。

伊藤氏:
同じですね! 今すごく悩んでいるのが、それなのに世の中が何で変わらないんだろう? ってことなんです。
いろいろなイベントのパネディスカッションに呼んでいただくんですが、基本的に志に共通項のある人がパネリストとして登壇するので、共感しかないわけです。

もちろん、そういう人たちばかりじゃないのは理解しています。でも人それぞれ価値観は違っても、目指すべき真理は同じなのでは? と思うんです。それなのに、なぜ世の中はこんなに変わらないんだろう? っていつも悩んでいます。

佐々木:
それって、セミナーなどで話を聞いて「そうだよな」と思っても、翌日家族や職場で話したり、いざ一歩具体的に踏み出そうとすると、心理ハードルがあるってことなんじゃないかな。

私が変革屋をやっていて一番大事だと思っているのは、「動きたくても動けない人たち」がどうして動けないのか、そのメカニズムをちゃんと理解することなんです。

動けない裏側には、たいてい「恐怖」や「諦め」があります。その「恐怖」や「諦め」が生じてしまうメカニズムを理解して、自分でそのロックを外してもらわないとダメなんですよ。自分以外の誰かが「いや、大丈夫でしょ」と言ったところで、誰も腹落ちしないでしょう。

「動きたくても動けない」理由をなくす


ChangeWave佐々木

――どうすればロックが外れるんですか?

佐々木:
やっぱり自分で体験しないとダメなんです。「怖いと思っていたけど、実は怖くなかった」という体験をすることが大事。
これが前回話した「ものすごくハードルが低くて、怖くなくて、ちょっと動いてみたら大丈夫だった」という成功体験なんですよ。

この「ハードルの低い成功体験」をいかに上手くプロデュースできるか、そのキッカケをどうやって作るかが、変革屋をやる上で一番のポイントですね。

伊藤氏:
それが冒頭におっしゃっていた「変革の自販機」につながるんですね。

佐々木:
はい。「実は怖くなかった」に気づけるメカニズムがあるのでは? と考えていて。

1人ひとり「怖い」と思う背景や文脈は違っても、どんな条件を整えれば怖くなくなるか?、どういうステップを経ると自分の奥底で「パチン」とスイッチが入るのか? については、普遍的な共通のプロセスがあるような気がしているんです。それが本なのかツールなのか分かりませんが、一定の段取りを経れば、みんな自発的にハードルの低いところから「動ける」ようになるのではと思っています。

伊藤氏:
1人ひとりはそれぞれ違うけど、未来に向けて動くスタンスみたいなものはだいたい同じで、そこを自販機化できたら楽だよね、ってことですよね。パターンはいろいろあるかもしれないけど、少なくとも土台の部分は普遍的だから。

佐々木:
動けない理由の多くは「世の中はこういうものだ」という固定観念なので、それを外すチャレンジも始めています。
たとえば、最も普遍的な世の中の固定観念といえば、年齢や性別にかかわる無意識バイアスです。そこで昨年、自分自身の「無意識バイアス」に気づくeラーニングツールを開発しました。既に3000人くらいのデータが集まっています。

伊藤氏:
なるほど、そういうものはこれからますます必要になってきますね。「やっても無駄だ」と諦めちゃう人も多いよね。

佐々木:
そう、「男だから」「女だから」「もう年だから」「まだ若いから」「世の中はこうだから」……みたいなやつです。いくら「そんなことないよ」って言っても、残念ながら意味がありません。これは誰にでもある脳の仕組みなんです。その人が今まで積み重ね、見聞きしてきた経験から脳内で「パターン認識」がされていて、よっぽど意識しない限り、無意識レベルで脳内処理されてしまうらしいので。
「勝手にパターン認識しちゃっているだけだ」と自分自身で何とか気づいて、「そのパターンと真逆の成功体験」をしないと、おそらくロックを外すのは難しい。

講演などで気づきを得て、行動に移せる人は、実はもう何となく「そうじゃない」と気づいていて、あとは行動するキッカケさえあればOKという土壌がある人たちだと思うんです。だから、むしろ講演を聞くだけでは気づけない人たちに「変革の自販機」を使って、変革のキッカケを得てほしいと考えています。

変革屋は「動く理由」をつくる


伊藤羊一氏02

伊藤氏:
変革といってもいろいろあると思うけど、最終的には人の心に巣食っている「恐れ」や「諦め」を解き放つことが目的なんですか?

佐々木:
「行動させる」ことがゴールです。行動させて、成功体験を得れば、おそらく物事が動き始めますよね。

行動させるとき、根深い問題があるから行動できないなら、それを何らかの形で必ず取り払います。「何のためにやるのか」が変わると動きやすくなることもあるので、相手が行動できる文脈に落としたり、時間軸を短く切ってすぐに動ける細かいレベルに行動を落とし込んだりする方法論もあります。

行動することで手ごたえを得て、心に巣食っているものが勝手に解放されるのが理想ですね。「心のリミッターを外して、行動させる」のが変革屋だと思っています。行動し、結果が出なければ意味がありませんから。

伊藤氏:
僕がプレゼンの指導でやろうとしているのも同じですね。「もう話せるから大丈夫だよ」ということなので。
Yahoo!アカデミアのリーダー開発でやっているのも、自分がなぜここにいて、何を考えているのかを明確にし、未来に向かって踏み出すということ。行動してナンボだよ、と。

佐々木:
羊一さんは1人ひとりにもやろうとしていますが、私は組織や環境を変えていくほうが得意です。

個人の行動は、どうしても環境の制約を受けます。環境側、つまり時代背景の変化やそれに対応した事業戦略・人材戦略と、その組織にいる1人ひとりの行動や感情は、システムとしてそれぞれ密接に大きく影響し合います。そのため、双方がお互いにいい影響を与え合うように「橋渡し」をしなければなりません。この接続を上手く同期できないと、しんどいんですよ。

――環境側を変える具体的な事例があれば教えてください。

佐々木:
営業職の女性たちが集まるエイカレ(新世代エイジョカレッジ)は、まさに環境を変える仕掛けです。いろいろな業種が参加していて、最後にはアワードがあり、メディアも入る。アワードがあることで、企業側としては他社と「比較」しながら、自分たちの立ち位置をメタ認知する場になっています。また、メディアが入ることで、ある意味「進化し続ける」企業であることを世の中に示さなければならない、という経営に対する「外圧」もかかります。

一方、営業女性たちは自分事として今の環境を変えたい。別に偉くなりたいとは思っていないけど、そういう「周囲の目」や「外圧」が企業にかかっている場であれば、この機会に自分たちが自組織を「こうあってほしい」方向に、本当に変えられるかも、と思い始めます。本気度のスイッチが入り、普段ならやらないワイルドな実験を、ものすごい熱量で推進し始めた結果、彼女たちの取り組みが固定観念を崩し、ポジティブな成果を生むことが多いんです。

さらにアワードで賞を取るとメディアによって拡散されます。メディアに取り上げられると、それは自組織の世の中に対する「ブランド」になり、経営のイシューになっていく――自社だけではそうはならないんですよ。
だからいろいろな会社を集め、アワードという場を用意してメディアを呼び、有識者を審査員に入れる。これが仕掛けです。

その結果、営業女性たちは、「自分では変えられないと思っていたことに対し、自分の力で一石を投じられた」という体験を得られます。
今までは偉くなりたいとは思っていなかったし、上司に逆らっても無駄、先行きも不安だと思っていたけど、自分で会社や世の中を変えられるかもしれない、ちょっと頑張ってみようかなと思える――それがエイカレという仕組みです。

伊藤氏:
自分の中にあるリミッターを外して行動できるようにする。もちろん自分で考えて行動するのが前提ですが、そのための仕掛けとして、エイカレという場を設計しているんですね。
いやー、僕の中にあった「変革」のイメージがすごく具体的になりました。やっぱり、やっていることは普遍的というか同じですね!

佐々木:
はい、お話していて私も驚きました(笑)。今日はありがとうございました!

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