多様性で会社を変える
~「無意識バイアス」と「当たり前」の打破~

2021.6.15

2021.6.15 ChangeWAVE

ダイバーシティ、多様性という言葉が巷間で溢れていても、今ひとつ自分ごとにならない。メリットが理解されにくい。そうした悩みを抱える企業は多いかもしれません。

ダイバーシティを力に変え、企業価値を向上させるためには、何が必要なのか。
企業の最前線でダイバーシティを推進されてきた本島なおみ氏(三井住友海上火災保険・常務執行役員、MS&ADホールディングス執行役員)と「変革屋」佐々木裕子の対談を通して考えます。

※本レポートは2021年5月開催の「日本の人事部・HRカンファレンス」で行われた対談をもとに作成いたしました。

MS&ADホールディングス執行役員本島様と弊社佐々木

スピーカー

本島なおみ氏
本島 なおみ氏
三井住友海上火災保険株式会社 常務執行役員 損害サポート本部長
MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社 執行役員

佐々木裕子
佐々木 裕子
株式会社チェンジウェーブ 代表取締役社長

 

2つの「アタリマエ」 再定義の動き

感染対策が施された会場、無観客配信。これらはwithコロナ時代に登場したセミナーの新しい「アタリマエ」です。
では、企業にはどんな動きが見られるのか。対談ではまず、佐々木が、2つの「アタリマエ」の再定義について話を始めました。

再定義される「アタリマエ」の1つめは、不確実性の高い時代における事業モデル/事業ビジョン、2つめは働き方の多様化による企業×従業員の協働モデルです。この2つは、これまでの常識(「アタリマエ」)の延長線上に未来はないという認識の広がりを示しており、企業が変革を求められていることと無関係ではありません。中でもダイバーシティについては、多くの企業で取り組みの本気度が増していることが明らかです。


出典 : 2020年10月 経団連「ポストコロナ時代を見据えたダイバーシティインクルージョン推進に関するアンケート調査」

 

しかし、現実問題として、ダイバーシティ推進を成果に結びつけるためには、幾つかの壁を越える必要があります。
なぜなら、ダイバーシティは意思決定の精度を上げるけれども、その構成員にとっては居心地が悪いと感じる場合があるからです。

同質性の高いチームは価値観の近い人が集まっているため、対立が少なく、スムーズに意思決定を行うことができます。一方で、多様なチームでは、価値観・背景が異なる人たちに事実を丁寧に精査して説明し、判断する必要が出てくるため、意思決定の精度は上がるものの、自信が持てなかったり、居心地が悪いと感じたりする、という実験結果があるのです。さらに、多様なチームは確率的に破壊的なイノベーションを生むけれども、短期的な効率としては悪く見えます。

 

「多様性で会社を変える」にはどうしたらよいのか?

では、この現実の難しさを乗り越えて会社を変えるには、何を、どう仕掛けていけばよいのでしょうか。チェンジウェーブでは、一例として「アタリマエ」を破壊する実証実験を提案しています。ここで言う実証実験とは、組織変革の有効性を実証するための小規模なもので、その仕掛け方としては3つのアプローチがあります。

1. 外圧を利用する
2. 経営が直接「お墨付き」を与える
3. 無意識バイアスから攻める

「外圧」の活用の1つとしては、新世代エイジョカレッジ(エイカレ)という異業種プラットフォームをご紹介しました。営業女性(エイジョ)たちが、現場発のアイデアで社内のアタリマエを破壊する実証実験を実施するものです。研修として参加する形をとりながら「変革にトライする」ことができ、社内外に「研修なので協力してほしい」という依頼ができる、という利点があります。
エイジョ自身の意識改革にもつながり、人材育成という側面でも大きな手ごたえが感じられます。

参考 エイカレ: https://eijyo.com/

続いて、経営が直接お墨付きを与えるケースです。
旧来型の経営では、経営者自らが変革のリーダーとなって率いる組織変革が多くありましたが、その形では社員の当事者意識が生まれにくいという課題もありました。チェンジウェーブが伴走する「自社のアタリマエを壊す変革プロジェクト」では、現場主導で取り組みが始まり、経営がお墨付き(権限)を与えることで、変革に向けた確実な一歩をスモールステップで踏み出すことができます。

最後に、無意識バイアス(アンコンシャスバイアス、無意識の偏見)から攻める、です。
多様な人材がいる=自分と異なる人がいる環境を理解していても、それが行動につながらなくては協働できず、組織パフォーマンスは上がりません。コミュニケーションや業務のアサイン、評価に影響を及ぼす無意識バイアスへの対処は重要です。「自分にもバイアスがある」「気を付けて見たら思わぬところに影響が出ていた」「こんな言動に注意するのか」など、自分ごととして捉えていただくための取り組みを地道に続けていくことが、結局は成果につながります。

 

「多様性で会社を変える」企業は何から取り組んだか

 

では、本島氏は、どのようにダイバーシティを推進してきたのでしょうか。そのプロセスを具体的に伺いました。

 

目標設定と共通認識の醸成~無意識バイアスへの課題感

本島なおみ氏:(以下、本島氏)
私がD&I担当役員に就任したのは2018年です。無意識バイアスの克服と女性登用をテーマに、グループ経営会議メンバー20名にヒアリングを行うところから着手しました。

佐々木裕子:(以下、佐々木)
なぜ無意識バイアスから始められたのでしょうか?

本島氏:まず、私の役割として、MS&ADグループ全体の目標設定と共通の取り組みテーマを決定しようと考えたとき、D&Iの障壁として女性自身の(キャリアに対する)思い込み、そして管理職層の(女性に対する)無意識の思い込みがあるのではという仮説がありました。そうした思い込みこそ無意識のバイアスであり、意識の問題は重要かつ深刻だとみていました。

 

 

本島氏:ヒアリングを通して、なぜD&Iが必要なのかという認識が完全には一致していないと感じたため、まずは経営層向けの無意識バイアス研修を行いました。佐々木さんに講師をお願いしましたが、体感型研修で、経営層に「自分の問題として」無意識バイアスをとらえてもらえたのではないかと思います。

佐々木:ありがとうございます。それはとても嬉しいです。具体的な変化は生まれたのでしょうか。

本島氏:2019年度からは、グループの女性部長70名のネットワーキングを目的とした女性部長の会を発足させましたが、研修の後、女性部長を関連事業会社の社外取締役に登用することがトップダウンで決まりました。正直、とても驚きました。

 

現場を変えるアクションを仕掛ける

佐々木:早速、登用にも変化があったのですね。現場レベルではいかがでしょうか?

本島氏:事業ライン(管理職)に対しては、チェンジウェーブのラーニングツール・ANGLEを導入し、無意識バイアスについて理解を深めてもらいました。
また、2020年度は、営業の女性社員にエイカレに参加してもらいました。事業部門をどう巻き込んでいくか、なかなか難しい課題もありましたが、なんとか社内を調整しました。
ただ、始まってみると、参加した営業女性たちの「これ、やりたい!」という圧倒的な熱量が現場を動かし、本部長、部長以下、ほぼ全員が一丸となって取り組んでくれたのです。
非管理職の女性が管理職を体験する「マネチャレ!」という実証実験で、大きなインパクトを残しました。

佐々木:エイカレ2020年度の大賞を受賞されたのですよね。メディアでも取り上げられ、社外からも問い合わせがあったと伺いました。本当におめでとうございます。

本島氏:ありがとうございます。もともと、自分が管理職になることをイメージできない社員もいたようだったのですが、実験を通して「管理職の仕事は意外と面白い。自分たちにもできるかもしれない」と感じたようです。周囲の管理職も、「彼女たち、できるかもしれない」という感覚を持つことができました。無意識バイアスの打破ですよね。受け入れた組織の側にも、良い意味で緊張感が増したという感想が寄せられました。

 

インクルーシブ・リーダーシップで次の段階へ

本島氏:現在は、D&Iのうち、インクルージョンに課題を感じており、経営者と現場レベルの社員が対話を通して化学反応を生む「e-ビジネスゼミ」という企画を進めています。

佐々木:弊社も伴走させていただいていますが、この企画の意図を改めてお聞かせください。

本島氏:多様性をイノベーションにつなげるためには何が必要なのかと考えたとき、「立場の異なる参加者が異論をぶつけあえる環境」だと思いました。
しかし、現状そうした議論がすべての職場で行われているのかというと疑問です。
そこで、役員と一般社員がフラットに議論を行うことで、グループ全体に対して影響力が及ぶ取り組みができるのではないかと考えました。経営層に声をかけたところ、ゼミ(5-6人)形式でフラットに議論することに賛同が得られ、実施が決まりました。

佐々木:インクルージョンにはリーダーの働きかけが大変重要ですから、どんな変化が生まれるのかとても楽しみですね。
最後に、大きなテーマになりますが、本島さんは「多様性で会社を変えるのに最も大切なこと」は何だとお考えでしょうか。

本島氏:とても難しい質問ですね。
「より多くの社員が、自分が会社を変えるという当事者意識を持つこと」でしょうか。会社としては、勇気をもって社員が一歩踏み出せるよう、仕掛けていくことが大事なのではないかと実感しています。

佐々木:ありがとうございます。本日は示唆に富んだ素晴らしいお話、ありがとうございました。

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