チェンジウェーブ 佐々木 裕子

MS&AD インシュアランス
グループホールディングス
本島 なおみ

経営層が無意識バイアス対処を
重視する理由

多様な人材が活躍できない、社員のエンゲージメントが下がる、人事評価を歪める、新規事業が生まれない…
「無意識バイアス(アンコンシャス・バイアス)」は
ダイバーシティを阻害し、組織に様々な影響を
与えることが知られています。
経営者は無意識バイアスをどのように捉え、
取り組みにつなげているのでしょうか。

MS&ADインシュアランスグループホールディングス・
執行役員、ダイバーシティ&インクルージョン担当の
本島 なおみ様に、
チェンジウェーブ代表、佐々木がお話を伺いました。

POINT 対談のポイント

  • 経営層がダイバーシティを

    経営戦略に据える理由

  • 管理職の無意識バイアス

    組織を変えるカギになる

  • 「自分にもある…」良い意味で、

    ショックを受ける研修

  • 行動に移すために

    「形で」デザインし「組織で」取り組む

  • 無意識バイアスと心理的安全性

01

イノベーションを起こすために
ダイバーシティ推進を
経営戦略の中心に位置付ける

MS&ADインシュアランスグループでは、
ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)を
中期経営計画における重要なテーマとされ、
無意識バイアスの克服にも取り組まれています。
まず、その背景についてお話しいただけますか?

本島 なおみ氏(以下、本島氏)
まず言えるのは「会社が持続可能であり、社会のニーズに沿って発展していくためには、イノベーションが不可欠です。しかし、既存のメインストリームにいる社員だけでは限界がある」という認識を経営トップが持っている、ということです。多様な社員が自由に意見を述べ、力を伸ばして働くことは、新しいものを生み出す源泉になります。社会的課題を解決する存在としてもD&Iはどうしても必要だと考え、基本戦略として据えています。
チェンジウェーブ 佐々木 裕子(以下、佐々木)
ここ10年くらいのダイバーシティ推進の潮目として「総論では賛成」となります。皆さん必要ないとはおっしゃらない。でも、それが経営として優先順位がどれほど高いのか、と考えると、何かとトレードオフがあった時には下がりやすいものだ、というのを何となく感じてしまいます。
しかし、MS&ADインシュアランスグループでは、中期経営計画の真ん中に据えられた。 D&I推進レポートを拝見すると、女性役員は10名(2019年7月時点)、女性管理職人数の伸び率も2017年度から2018年度の1年で27.6%と、驚異的な成果を出されています。
本島 氏
管理職への登用についてはむしろ保守的に運営していると思います。管理職比率は注目されますが、数を急激に増やせばいいというものではありません。「なぜこの人が?」などとなると周囲も本人も辛いし、持続可能ではなくなってしまいます。きちんと育成をして昇進、という「過程を大切にする」ということで、むしろ外のざわつきに影響されず、ゆっくりじっくり地道にやっていこう、というのが当社グループの姿勢です。
02

管理職の無意識バイアス対処が
「個の活躍」のカギを握る

佐々木
無意識バイアス(アンコンシャス・バイアス)に取り組まれたのは、その育成の過程に理由がありますか?
本島氏
そうですね、意識に関わるところが一番大切だと考えました。
グループで共通に取り組むテーマを4つ決めていまして、そのうちの1つが 「管理職の無意識バイアス克服」です。管理職に無意識バイアスがあると、女性だけでなく、少数派の人たちに「機会を与えない」というか、制約を作ってしまいます。大切な仕事は女性に任せない、などですね。これは彼女には荷が重いのではないか、とか、一般的に「配慮」と言われていることが機会提供の差につながっていきます。会社で長く過ごしているうちに、小さなことが積もり積もって大きな差が生まれます。
そうだとすれば皆にチャンスを与える、「管理職」の意識を変えていくということが、多様な社員が活躍する土台になるのではないか、と考えたわけです。
03

誰にでもあるし、自分にもある
経営陣が「良い意味で」
ショックを受けた勉強会

今年(2019年)4月にはグループの経営陣全員に無意識バイアスの勉強会を開かれました。
管理職層に研修をされる企業は増えていますが、経営陣全員、というのはなかなかありません。

本島氏
昨年、グループ内の会社で、チェンジウェーブのe-learningツール「ANGLE」を導入し、意思決定層の1,100人が受講しました。私自身も受けまして、なるほど、これはいいな、大切なことだと感じたんですね。無意識バイアスは誰にでもある。
女性の私にも、女性に対して無意識バイアスがある。身をもって体験しました。
「誰にでもあって、なくせない」のですから、経営陣にも当然ある。社会的に成功した人はむしろ無意識バイアスが強いということも知りました。それであれば影響力の強い人たち、経営陣にも勉強会に参加していただくべきだと思ったんです。以前、講演を聴いたことがあったので、チェンジウェーブにお願いすれば、良い意味でショックを受ける勉強会になるのではないかと思いました。
佐々木
ありがとうございます!お話しさせていただいて、多様性に対する受容が皆様のベースにあるというのか、ちゃんと受け止めていただいた感じがして、とても光栄に思いました。経営陣からはどんな反応がありましたか?
本島氏
実施することに異論は出ませんでした。チェンジウェーブさんの講演は体感型ですし、事例で迫るので「なるほど、バイアスは誰にでもある、自分にもある」という点を受けとめてもらえたのではないでしょうか。自分にはバイアスはないと思っている、すごくオープンでリベラルでフェアだとみんな思っている。でもそうじゃない、みんな結構持っているんだと体感していただくのはスタートラインとして大切だと思います。
04

行動に移すために、
形でデザインする

本島氏
ただ、「行動に移す」ことが大切ですから、事務局としてはこれからが勝負だと思っていました。無意識バイアスのコントロールについて佐々木さんに伺って「物理的な距離を詰めるというのも1つの良い方法です」とアドバイスいただきましたよね。
佐々木
脳の働きとして、自分に近いものを好むんですよね。距離が近い人はバイアスが働いて大事にされる、遠くにいると逆、とか。
本島氏
そのお話を聞いて、形でデザインする事が必要だと考えました。そこで、経営層が男性ばかりだったグループ会社9社について、新たに女性に役員となってもらいました。意思決定層を多様化することを狙いとし、女性部長や社外取締役を配置するということです。
実は、これはかなりハードルが高いと予想していたんですが、スムーズに進み、むしろ是非やるべきだ、となりました。勉強会の影響もあるかもしれません。
05

経営陣から
良い影響が広がってきた

経営陣の方々もアクションを自ら起こされていると伺っています。

本島氏
経営トップ(取締役社長・グループCEOの柄澤康喜氏)のメッセージに「無意識バイアス」が明確に入るようになりました。勉強会で刺激を受けたこと、バイアスを克服することがD&Iを推進するうえで大切だということを社外にも発信していますし、部長級の会議でも熱の込もったメッセージを発しています。
独自の役員勉強会を実施したり、社員の意識改革施策を実行しているグループ会社もあり、経営陣への勉強会を起点に、良い影響が広がってきたと感じます。
佐々木
大変複合的に仕掛けられていて、なかなか見られないベストプラクティスですね。実現のポイントは何だったと思われますか。
本島氏
まだまだ十分とは思っていないですが、一つ言えるとすれば、ボトムアップとトップダウンの両方があったということです。事業会社で社員の意識改革に取り組んでいることに、経営陣の強力なリーダーシップが相まった状況と思っています。
06

組織での取り組み~
心理的安全性と無意識バイアス

佐々木
弊社のe-learningツール「ANGLE」のIAT(受講者の無意識バイアスレベルを測定するテスト)は学術的なアルゴリズムに基づいて作っていますが、その監修をしてくださった研究者のご縁で、先日、日本社会心理学会に事例発表に伺ったんですね。管理職の行動変化を見て、研究者の方々が、素晴らしいと仰ってくださいました。
けれども、研究では「個人の努力だけでは、コントロールし続けるのは難しい」ということがわかっているのだそうです。組織的な、ある意味ガバナンスが必要だと。
あと、自分の評価を棄損されるリスクがあるとか、少し疲れているとか、そういう時に無意識バイアスは出やすいそうです。例えば、女性が登用されると男性にチャンスがなくなる、と認識してしまうなど、自分の存在意義が脅かされる時には、無意識バイアスのスイッチが押されるんです。
本島氏
その研究は私も読みました。研修も、やり方によっては逆効果になるのですね。
佐々木
ですから、ものすごく心理的安全性を担保したうえで無意識バイアスを扱わなくてはいけないと思いますね。ANGLEでも、そこは気をつけているところです。
本島氏
我々の4つのテーマには、無意識バイアスの克服のほかに「多様な意見が活発に出る職場づくり」、つまり心理的安全性を掲げています。心理的安全性と無意識バイアスは相互に影響するんですね。話を伺って初めて腑に落ちました。
次の一手、「形」をどうデザインして実行するか、今日のお話を踏まえて考えていこうと思います。
佐々木
変革の定石としては「目に見える成果がそこここに起きる」ということが必要なんじゃないかと思います。ルールが先に来ると骨抜きになるリスクもありますから、仕掛けを作られる時に、意識されるといいかもしれないです。
本島氏
興味深いですね。もう少し別席で詳しく聞かせてください(笑)
佐々木
はい、ぜひ。今日は本当にありがとうございました。
本島なおみ氏 プロフィール
MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社 執行役員(ダイバーシティ&インクルージョン担当)
損害サービス、経営企画など多岐にわたる部門を経験し、
2014年、三井住友海上火災保険株式会社傷害疾病損害サポート部長に就任。 2018年より現職。

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