チェンジウェーブ 藤原 智子

株式会社 資生堂 人事部
人材・組織開発室 室長
牛島 仁

ダイバーシティがなければ、
イノベーションは生まれない

先行き不透明で変化が激しい現代、イノベーションを生むための経営戦略として
ダイバーシティ&インクルージョンを重要視する企業が増えています。
それが理想論に終わらず、真の成長につながる戦略とするには何が必要なのでしょうか。

株式会社資生堂 人事部 人材・組織開発室 室長の牛島仁様に、
チェンジウェーブ 藤原智子がお話を伺いました。

POINT 対談のポイント

  • ダイバーシティなしに

    イノベーションは起こらない

  • 現実にあるハードルを

    無意識バイアスへの対処で越える

  • なぜ今、経営陣から取り組むのか

  • 「実際、どうするのか」、行動を変えるための

    ポイント

  • 無意識バイアスへの対処はどんな成果を

    生んだか

01

ダイバーシティなしに
イノベーションは起こらない

資生堂では”LOVE THE DIFFERENCES”(違いを愛そう)をスローガンに、
ダイバーシティ&インクルージョンを推進されています。
既にダイバーシティ先進企業であるとお見受けするのですが、現在の取り組みについてお聞かせください。

牛島 仁氏(以下、牛島氏)
資生堂がダイバーシティ推進というイメージを持たれているのは過去からの女性活躍関連の活動によるところが大きいと思うのですが、現在は更に上のステージを目指し、性別や国籍など、そういうカテゴライズしたものでなく、「個々人がみんな違っていて良いじゃないか」という、個の多様性を認めていきたいという考えで”LOVE THE DIFFERENCES”を掲げています。
その背景にあるのは、1872年に創業して約150年となる資生堂が、今後もずっと続いていく企業であるためには「進化」し続けなければならないという思いです。もはや現業の改善や漸増の成長だけで競合に勝っていける時代ではないとすると、「大きなイノベーション」を起こさなくてはいけない。
特に2019年4月からは新しい企業理念、THE SHISEIDO PHILOSOPHYを定義してイノベーション創出に取り組んでいます。「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」、美の力でイノベーションを起こしてより良い世界を作る、それこそが我々のミッションであり存在意義だと考えています。
そこで、イノベーションは何で起きるかというと、やはり多様な価値観やアイデアから。つまりダイバーシティですよね。ダイバーシティがないところにはイノベーションはありえないんです。
これを念頭に置いて進めている施策の一つが無意識バイアス(アンコンシャス・バイアス)への対処です。様々な取り組みはありますが、研修としては、株式会社資生堂、つまりグローバル・ヘッドクォーターの役員と部門長クラス85人に対してチェンジウェーブの「ANGLE」を使いながら進めています。この後、日本地域オフィスである資生堂ジャパン株式会社にも展開していきたいと思っています。
02

現実にあるハードルを
無意識バイアスへの対処で越える

チェンジウェーブ 藤原智子(以下、藤原)
ANGLEのご導入、ありがとうございます!しかしなぜ無意識バイアスに、しかも経営層から、取り組もうと思われたのでしょうか?
牛島氏
弊社のダイバーシティの現実に、まだハードルがあることを分かっているからです。
資生堂はグローバル企業としてプロダクトやサービスは世界に広がっていますが、そこに意識が追いついていないところがあります。具体的に言えば、資生堂が展開している国と地域は120にのぼり、従業員は約46,000人おり、その国籍は80か国位になります。しかし、日本をoriginとして持っている会社ですから、考え方はどうしても日本主体になるところが強い。
しかし、海外では通用しない「自分たちの当たり前」を少し疑ってみた方が良いのではないか、違いを受け入れるためには、受け継ぐべき我々の伝統資産を大事にしながらも、そもそも自分たちが意識していない思い込みや固有の考え方に気づいた方が良いのではないか、と考えたのです。
藤原
その「思い込み」、「自分たちの当たり前」が無意識バイアスということですね。
牛島氏
そうですね。イノベーションって、「多産多死」から生まれると思うんです。色々なものを生んでみて失敗した、ダメだった、でもそうやっていくうちに、ものすごいものが出てきたりする、ということですよね。だとすると、単一の考え方だったり、均一性の高いメンバー構成だったりでは生み出せない。
さらに、せっかく良いプロダクトを新しく作っても、売り出す時に「今までと同じやり方を踏襲する方が楽だ」という同調圧力がかかったら意味がない。でも、ダイバーシティがあると空気なんて読めないから、素っ頓狂なアイデアが出たりする。だいたい面白いことはクレイジーアイデアから生まれます。
そのためには自分の当たり前を疑って、「違い」は「間違い」ではない、「違い」は「違い」でしかないということをきちんと受け入れていく必要があります。ですから、まず、なぜお互いの「当たり前」が生まれて、良くない形になってしまうのかということを理解したほうが良いと考えました。しかも、それを上の層からやっていった方が良いと。
03

なぜ今、経営陣から取り組むのか

藤原
ただ、貴社の業績は大変好調でいらっしゃいます。「まだ、このままでもいいのでは」という見方もあるのではないでしょうか?
牛島氏
おっしゃる通り、2014年に魚谷(代表取締役社長 兼 CEO、魚谷雅彦氏)が入ってからV字回復し、1兆円企業という目標を1年前倒しで達成しています。しかし、1兆円企業を達成したら、もう2兆円企業を考えているんですね。となると、既存の延長では絶対に無理です。新規事業開発も必要になるし、新しいマーケットも開拓しなくてはいけない。そういうドライブがすごくかかっています。今の時代は先が読めないし、どこから競合相手が現れるのかもわからない。生きのびていくためには進化・変革しなくてはいけないのは間違いない。そういうところを魚谷が明確に意識して打ち出しているというのはあると思います。
藤原
最初に経営陣から取り組まれたのにも、意図があると伺っています。
牛島氏
“Leaders set the tone”と言いますが、カルチャーを作るうえで一番大切なのはリーダーです。無意識バイアスにきちんと取り組むのが非常に大事だということをリーダーがわかっていなければ、その雰囲気さえも台無しになります。色々手を打っても、砂漠に水を撒くようになってしまいますから。
ただ、現状は何かを直していくというよりも、「予防」という考えも強いです。
例えば、商品開発やマーケティングにおいて、自分たちの「当たり前」で進めてしまうと、新しいアイデアが生まれなくなる危険性があります。また、上司にも、部下にも「両サイドに無意識バイアスがある」ために言いたいことが言えなかったり、悪気なく相手を押さえつけるような言動をとってしまったり、ということが現実に起きているというのも、我々人事としては感じることがあります。
そちらの方が取り組む理由としては大きいかもしれないですね。
04

「実際、どうするのか」、行動を変えるために

行動を変える、という面で、苦心されたことはありますか?
牛島氏
ワークショップをしていると、「職場で実際にどうすれば良いのかが難しい」と言われます。一つのモデルでこれが正しい、というわけにいかない。組織の規模や職務の性質、上司と部下の関係性など、非常に多くの変動要因がありますから。ただ、だからこそ、少なくとも自分の当たり前が相手の当たり前ではないということをまず意識すること、自分の考えを伝え、相手の考えの根拠を聞くこと、を強調して伝えています。
藤原
確かに、どのように行動を変え、意識し続けていくのかは、ANGLEでも丁寧に設計しているところです。
牛島氏
実は私は、前職でも無意識バイアス(アンコンシャス・バイアス)に取り組んできましたが、自分に無意識バイアスがあるということを実感・体感してもらうのがしんどいところではありました。ANGLEではそれをIAT(無意識バイアスレベルを測定するテスト)で体感できて、可視化できるのが強みだと思います。あと、オンラインのメリットとして、人数ですよね。こういうものはなるべく多くの人が知ったほうが良いとすると、そのスケールをカバーしていくやりやすさがある。この2つがANGLEを良いと思う、特に大きい理由です。
05

無意識バイアスへの対処は
どんな成果を生んだか

実際の取り組みの中で、感じられたことはありますか?

牛島氏
ANGLEの相談事例(コンテンツの一つ。職場で起きがちなケースについて受講者が対応を考え、自由記述する)をやってみて、カルチャーの違いから議論になったりするのが面白いなと感じました。
実は、資生堂が「LOVE THE DIFFERENCES」と言うのは、これがすべてに当てはまるからです。例えば転職してきた人なら前職がどんな企業だったかによって、経験してきたカルチャーが違う。新卒からずっと資生堂で働いている人だとまた違う。同じ日本人でもダイバーシティになっているじゃないですか。時にはそれでカルチャーコンフリクトが起きたりする。
藤原
議論になって初めて、お互いの違いを知ることができるのかもしれませんね。
牛島氏
そう考えると、無意識バイアスに取り組むと良いのは「何にでもアプライできる」こと。
性別や年齢の違い以外にも、それこそ「関西人だから○○」とか、ありますよね。知らない間に何かしら発言の元になっていたりします。それによってすごく嫌な思いをしている場合もあると考えると、物を言う時にはいったん立ち止まってちゃんと考えて言う癖をつけるとか、即断してしまわずに考えてみるとか、必ず意見を聞いてみるとか…。
そういうことで心理的安全性を作ることによって、相手へのリスペクトはもちろん必要だけれども、基本的には何を言っても咎められないんだ、という場を作らない限り、前向きな対立は起きない。凡庸なアイデアとか上司を喜ばせる発言しかなかったら、イノベーションなんて生まれるわけがないですから。
実は、基本的にビジネスに多様性は邪魔、という側面もあるのです。本当は多様性がない方が意思決定のスピードも早いし、対立もなく楽だし。だけどそれでは新しいアイデアも出ないし、生き延びていけない。
藤原
チェンジウェーブでANGLE受講者の追跡調査をしているのですが、実際変化が見られたのは、言動、業務の割り当て、評価についてでした。業績が上がったという方もいました。
牛島氏
因果連鎖が少し遠いのでわかりにくいのですが、少なくとも、エンゲージメントには明確に関係してきますね。上司が部下の話を傾聴するようになった、というだけでも部下のエンゲージメントは上がる。「もう少し頑張ろう」という気になったりする。
藤原
マネジメントのスタイルも変わってきますね。
牛島氏
ダイバーシティのある職場って、管理職にとっては大変なんです。会議では予定調和がなく、もめることが前提ですから、管理職はファシリテーターにならなくてはいけない。でも、環境に変化が起きた際、同じような人ばかりだと、例えばインフルエンザにかかったら全員倒れます。色々な抗体を持っている人間が色々なアイデアを出しながら乗り切っていけるのとは全然違う。無意識バイアスを学ぶことが、こういう方向でも役立つんだということに気づき、もっと意識的に実践していけるようになると良いと考えています。
藤原
無意識バイアスに取り組むことでどんな変化が起きるのか、チェンジウェーブでもさらに調査・分析を続けていきたいと思います。本日は本当にありがとうございました。
牛島 仁 氏 
プロフィール
コロンビア大学国際教育開発学修士号を取得後、AIG米国本社の人事リーダーシップ
プログラム生として入社。日本支社人事部にて企画マネージャー、人事課長を務めた。2006年にDHLジャパンに人材・組織開発の責任者として入社。2010年よりドイツ本社人事に転籍し、エクゼクティブオフィサーの人材開発シニアエキスパートとしてドイツ本社で勤務。2014年よりGEクロトンビルにて日本およびアジア太平洋地域のリーダーシップ開発を統括。2019年より現職。

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