チェンジウェーブが事務局として参画している「MICHIKARA(ミチカラ)地方創生協働リーダーシッププログラム」。
発起人であり第1期から事務局メンバーとして参加していただいている塩尻市役所 企画政策部 地方創生推進課シティプロモーション係長の山田崇様に、どのように市役所を巻き込んでいったのか、MICHIKARAを通して参加者がどう変化していったのか、お話を伺いました。
―MICHIKARAが実現できた大きな理由は何だと思いますか?
チェンジウェーブ代表 佐々木裕子(以下、佐々木):
ラッキーだったのは、山田さんが企画政策部企画課にいたこと。他の事業部にいたら実現できなかったと思います。企画課は複数年スパンの予算の方向付けや議会対応などをやる市長のブレーン的な部署。その部署が主幹しているのがすごく良かった。
山田崇氏(以下、山田):
地方創生の一貫として、どうやって民間の力を市の政策に反映するのか、その仕組みを検討するよう、国からの方針も示されていました。ただ、民間の力をどう活用するか? の具体策が無かった。そこに佐々木さんが来てくれたんです。
佐々木:
先日、シンギュラリティ関連のイベントに参加したとき、破壊的イノベーションを起こすエキスパートが「役職ではなく、まずはインフルエンサーを巻き込め」と言っていました。
組織の中には、必ず影響力を持っている人たちがいるので、彼ら全員を巻き込むところから始めないとダメだと聞いて、グローバルでも同じなんだなと思ったんですね。
市役所においては職掌的に企画課に権限が集まりやすいのもありますが、インフルエンサーとなる人がいないと構造的に動かない気がしていました。だから、企画課×山田さんと一緒に始められて、ラッキーだったんです。
突破力があって、すでに組織やその周囲のハブになっている人(=山田氏)が言い出しっぺになっていて、かつオフィシャルな権限(=企画課にも所属する)もある山田さんが「やろう」って言ったのが大きい。
かつ、キーパーソンの山田さんだけでなく、企画課の人が「世話人」という形で各チームに1人ずつ入ってもらう判断は良かったと思います。
企画課のメンバー全員が携わってくださったおかげで、各チームに対して「自分のプロジェクトだ」と絶対に予算を通してくれるんです(笑)。
本来であれば、各部署から上がってくる予算申請にダメ出しをする役割の人たちが「自分事」と感じてくれたら、ほとんど障害はないですよね。
―企画課の人たちは、なぜ積極的にMICHIKARAに参加してくださったんだと思いますか?
山田:
最初に佐々木さんが、一緒にやれるかどうか確かめるために塩尻まで来てくれたんです。そのときに、市の特徴的な交流拠点や施設を見ていただき、企画課のメンバーと部長・課長という役職者全員と会ってもらいました。
佐々木:
幾つか民間の人たちを連れて行く案を出したら「全部やりましょう」と即おっしゃってビックリしましたし、それを聞いて手応えを感じました。決裁者と関係者が全員揃っていて、これだけ早く意思決定できるのであれば、何か一緒にできるかもしれないと思ったんです。
その場で私の提案を聞いて「YES」という意思決定のスピードは驚異的でした。市役所に対して持っていたイメージとだいぶ違って、とりあえずやってみよう、と動く人たちなんだと思いました。
―MICHIKARA事務局のメンバーからは「仕様書がMICHIKARAのキモ」だと伺いました。具体的にどうやって作っているんですか?
山田:
課題を絞り込んでいくときの佐々木さんがとにかくすごいんです。Skypeでやり取りすることも多かったんですが、MICHIKARAで参加者が佐々木さんと壁打ちするより恐ろしい。みんな画面の中の佐々木さんに向かって背筋伸ばして「気をつけ!」をしていましたから(笑)。
佐々木:
3期目だけど、今回が一番大変でしたね。テーマがなかなか決まらなくて、3ヶ月くらいかかりました。
仕様書で重要なのは、テーマがクリアで、2泊3日で解けるイメージができるか? 民間企業の人たちと一緒にやる意味があるか? です。
―仕様書を作る中で、市役所の担当課の方たちと壁打ちすると思いますが、その過程で仮説ができてしまうことはないんですか?
佐々木:
できないです。だけど、どう動いて、どれくらいの期間で何が見えてくるかは分かります。
フィールドワークで、どこに何を見に行ったらいいのか良いのか、ある程度想定ができるまで仕様書を詰めておくことが重要。
ゴールを想像するのではなく、動き方を想像するイメージ。限られた時間で結果を出してもらわなければならないので、無駄に動いている時間がないんです。
―MICHIKARAは各チームに伴走している各民間企業のメンターの役割も重要だと感じました。彼らに対して、事前にどんなことを伝えていたんですか?
佐々木:
「あまり介入しないでください。でも、まずいなと思ったときは、どんなことでもいいので教えてください」ということだけですね。
それで実際に私のところに相談に来たときに、タイミングとして早ければ様子を見て、アドバイスに行くときも誰を行かせるかを判断しています。
―MICHIKARAのような大きな取り組みを続けていくのは大変なことだと思いますが、今後の展開について考えていることがあれば。
山田:
今後は市役所の課題だけでなく、商工会議所や社会福祉協議会など、テーマの出し手を市民に開いていこうという案が出ています。第3期やってみて、市の職員たちも力がついてきたと感じているので、今後は半分市役所、もう半分は公共セクターの課題をテーマにしていきたいと考えています。
―山田さんはもともと「市役所を変えたい」とおっしゃっていましたが、MICHIKARAを通じて、どんな手応えを感じていますか?
山田:
すでに変わっていると思います。各事業部から企画課や地方創生推進課に施策が提案されると、佐々木さんが仕様書を作るときにやってくれたように「なぜ? ターゲットは? いつまでに? 具体的には?」と質問して深く掘り下げていくのが当たり前になってきました。
佐々木:
MICHIKARAに参加したメンバーで、山田さんから見て大きく変わった人はいますか?
山田:
第2期に参加した先輩の男性職員に、市民から「あの人、すごく変わったね」と言われた人がいます。本人も今のプロジェクトから外れるなら、市役所を辞めるって言っているんですよ(笑)。最初はすごくドライで、最終日は参加できないと言っていましたが、2日目に「どうしても最終日を見たいから、ビデオに撮っておいてほしい」と懇願されて。僕から見ても、MICHIKARA以前とは別人のようです。
他にもさまざまな変化が目に見えてきて、「口に出してもいいんだ」という空気感ができてきましたね。みんな「具体的に何をやればいいんだっけ?」ということが、やっと見えてきた感じです。
―他の自治体に横展開していくには、何が必要だと思いますか?
山田:
2泊3日の合宿に伴走していただかないと、分からないことも多いと思います。
佐々木:
「本当は全部地元の人たちでやらないといけないのでは?」という意見が出ることも多いですね。そういうことではないんだよな……と思いつつ、ここにバイアスがあると感じています。
山田:
表面的にしか見てもらえないというか、伝わりにくいんですよ。地元紙に取り上げられる際も、紙面の都合で「**公園をどうにかしよう、というテーマで――」というような書かれ方をしてしまうと、「それは市役所が考えてくれればいいのでは?」と思われてしまうんですよ。
佐々木:
しかも映像を見ると、参加者が泣いていたりするので、また違った形で伝わってしまうことも多くて。何が起きているのか? どんな仕組みで変革を起こしているのか? を理解するには、やはり伴走していただくのが一番だと思います。興味を持ってくださった幾つかの自治体から、すでに来期のMICHIKARAに伴走したいという問い合わせをいただいます。
今回の取材では、「Mr. MICHIKARA」と呼ばれ、第1期からずっと参加してくださっている塩尻市役所 企画政策部 企画課 経営企画係 主任の北野幸徳様にもお話を伺いました。
北野様は事務局としてだけでなく、チームメンバーとして参加いただいています。
佐々木や他の事務局メンバーの目の届かないところで、具体的にチームに何が起きているのか? どんな変化が生まれたのか? を中心にお話しいただきました。
―初めてチェンジウェーブの話を聞いたとき、どう思いましたか?
北野幸徳様(以下、北野):
人口減少によって市の税収も減っていくことが確実な中、今後は民間の力を使って行政サービスを提供しなければならない時代になるという危機感をもともと持っていました。
また、市の総合計画に民間と協働していくことは最上位に挙げられていたので、タイミングとして良かったと思います。
佐々木さんのご経歴やエイジョカレッジなどの実績を見て、彼女のような人と一緒にプロジェクトをやるのは非常に良いチャンスだと感じました。
MICHIKARAの立て付けは、民間企業側は研修という形で参加し、塩尻市側は行政課題に対し、民間の力を借りて解決案を導き出すというものです。行政側に寄りすぎてしまうと民間企業にとって研修にはなりません。反対に、研修寄りのテーマだけにすると、行政が本当に解決してほしい課題にたどり着きません。
その双方のバランスを取りながら、的確に導いてくれる佐々木さんの存在は、本当にありがたかったですね。
―他の自治体への横展開が難しいのは、なぜだと思いますか?
北野:
施策や事業の評価と整合させながら予算化につなげる仕組み、塩尻市でいえば行政経営システムに落とし込むのが難しいのではないでしょうか。
私や山田が所属している企画課、つまり市全体の計画や事業評価、予算を付ける役割を持っている部門が本気にならないと難しいのでは。
あとは個人的な意見ですが、やりやすい自治体の規模があるのではと考えています。地域の人たちとの距離感が近いのも取り組みやすさの理由の1つかもしれません。
―チームの一員としてご覧になって、メンバーが変化した理由は何だと思いますか?
北野:
一番大きいのは、当事者意識がどんどん強くなっていくこと。フィールドワークを通じて、街の人たちと触れ合うことで「何とかしたい」という気持ちを強く持つようになってもらえたように思います。
―当事者意識がどんどん増していくのはMICHIKARA独特だと思いますが、なぜだと思いますか?
北野:
チームに入っている市の職員が、どれだけ本気になれるかが大事です。
今回は市長に提案して終わりではなく、提案したものを来年度の予算に反映する仕組みになっているのがポイントですね。実際に予算化して事業を執行する担当職員も、メンバーとして参加している。だから、本気になれるし、ならざるを得ないんですね。
チーム内で「本当に行政の施策になり得るか?」という視点で議論しているのは、一般的なビジネスコンテストとは全く違う点だと思います。
さらに塩尻市全体の計画を握っている企画課の職員も全チームに入っている立て付けすることによって、提案の実現可能性を高めることができているのではと考えています。
―なるほど、ありがとうございました! 来期もよろしくお願いいたします。