アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が、人的資本経営を阻む
若手、特に女性登用を妨げる
”本人のアンコンシャス・バイアス”にどう対処するか
アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)というと、部下や周囲の同僚など、自分が関わる「相手」に対する決めつけや「企業」が取り組むべき課題と考える方も多いかもしれません。
ところが、女性が管理職やリーダーになることへの心理的ハードルは、実は自分自身に対するアンコンシャス・バイアスの影響も大きいのです。
女性だから。
育児中だから。
もう年だから。
本人が自分に対して感じている限界……これこそが思い込み、無意識のバイアスです。
女性管理職が増えない理由の陰には、企業のサポート体制や風土の問題だけではない課題があります。
自分が自分に対して感じている思い込み、知らないうちに自分がとらわれている「枠」を外すことで、個人の働き方は大きく変わります。社員一人ひとりが自分の思い描く働き方は実現可能なのだと知ることは、企業としても大きなブレイクスルーとなるはずですし、人的資本経営の土台にもつながります。
では、その「枠」=アンコンシャス・バイアス、無意識の偏見を手放す方法を、個人の視点、企業の視点で見ていきましょう。
女性が管理職を諦める「3つのバイアス」
2021年の3月に国際フォーラムで発表された「ジェンダー・ギャップ指数2021」によると、日本は総合スコアで156ヵ国中120位。先進国の中ではワーストクラスです。
また、女性管理職を対象にしたある意識調査では、今後、昇格を望むかという問いに対して、2021年に「昇格・昇進したい」と答えたのは48.6%。昇格・昇進を望む声は半数以下で、2018年の54.4%に比べると5.8ポイント減っています。
チェンジウェーブでは企業のD,E&Iに伴走すると共に、若手・女性が自律的にキャリアを構築し、管理職や変革リーダーに臨む土台づくりを支援してきました。アンコンシャス・バイアスeラーニングツール「ANGLE」の提供、異業種研修「エンパワメント・カレッジ(以降エンカレ)」の開催などはその一例です。
これらのプログラムの大きな目的の1つに、企業で働く女性たちが、自分自身に対して持っている3つのアンコンシャス・バイアスに気づいてもらうことがあります。
1.目標とする女性管理職がいない
昨今、企業内での上司との1on1、企業外でのメンター制度などが展開され、社員個人が課題を抱え込まずに済む取り組みが浸透してきていますが、「女性管理職意識調査(一般社団法人日本経営協会)」によれば、自社に「目標とする女性管理職がいない」と答える女性は7割にものぼります。
しかし、「ロールモデルが必要」というのも、ある意味ではバイアスかもしれません。
チェンジウエーブでは、「ロールモデルは、『その人のようになりたい』と思える人を探すのではなく、「パーツごとに取り入れる」ことを提案しています。そもそも、メンターやロールモデルは「目指す対象」や「教科書」ではありません。自分自身の理想のキャリアを築いていくためには、たくさんの人のいいところを取り入れ「こういう人になりたい」という自分だけのオリジナルのロールモデルを生み出すこと。そうすれば「目標とする女性管理職がいない」と嘆くこともありません。
2.管理職に魅力を感じられない
さきほど挙げた調査では、現在管理職である女性たちの3割が「今のままで良い」と、さらなる昇進を望まない傾向が見えてきました。
これには、もともと個人が持っている「管理職とは24時間フルコミットする仕事」「厳しい女性、強い女性、が向いている」というバイアスによるものもあるでしょう。また、自社の管理職を見ていて「育児をしながらのキャリアアップが難しそう」と思ってしまうケース、自分のキャリアの方向性、もともとやりたかったこと、将来のイメージとのギャップを感じてしまっているケースも多くみられます。結果、「私がやりたかったのは管理職というわけではない」と思ってしまう傾向があるのです。
一方で、「管理職を経験してよかった点」としてトップに挙げられたのが、「自分の判断で仕事を行うことができる」「やりがいのある仕事ができる」「自分の裁量で仕事量や時間を調整できる」「収入が増えた」など。その下には「視野が広がり、会社全体の動きがわかるようになった」「自己成長につながった」など、自身の価値観から踏み出し、やりがいを見つけた姿も見えてきます。
つまり、多くの社員が、「自分が見てきた管理職」に対するアンコンシャス・バイアスによって、違う方法を見つける前に、未来への扉を開かずに引き返してしまっているのです。
3.今は無理、自分にはできないと思う
最後に、「今は子どもが小さいため、海外赴任は難しい」「出産を考えているので管理職としてやっていけると思えない」「家庭があるので転勤は無理」という課題を感じているケースが挙げられます。
実は、これもまた、個人の思い込みであることが多くあります。
実際、エンカレのロールモデル・ラウンドテーブルでお話しくださった方の中には、子連れで海外赴任が可能な国、方法を模索し、実現させた女性も少なくありません。
また、海外赴任をしたかった理由について掘り下げてみることで、「海外に行かなくても、やりたかった仕事をする方法がある」と気づけることもあります。
つまり、「できない」「自信が持てない」ということすら、自分の可能性に蓋をするアンコンシャス・バイアスであることがほとんどだということです。正確には「障害になっている」のではなく「障害になっていると『思っている』」。この、バイアスのほうに課題が潜んでいます。
個々の思い込みに風穴を開け、新たな風を送り込むことで、意識が変わり行動が変わる
いま、企業が考えるべきは、社員(個人)が、生まれてから、そして仕事を持つようになってから、影響を受けたアンコンシャス・バイアス、ステレオタイプをいかに払拭できるか、に尽きます。
バイアスは日々の中にまるで空気のように存在しています。
その人にとっての「あたりまえ」ですから、周囲から指摘されたり、自身の姿を映し出されたりしない限り、気づく機会を得ることが難しいのです。
有効なのは、社内外問わず、多くの異なる視点と出会う機会を個人に持たせること。そこで、「そうか、こういうキャリアの築き方があったんだ」「この人のこの部分を自分のキャリアにも取り入れたら変われそう」と思える機会があるだけで、人は大きく変わります。
また、個人が自分自身のアンコンシャス・バイアスを超えるためには、「気づき」と「塗り替える実証」の体験が不可欠。チェンジウェーブでは、「エンカレ」「エイカレ」、「アタリマエを崩すプロジェクト」など、企業や部署をまたいだプロジェクトでこれをご支援しています。まさに、「多様性で企業価値を上げる」体験の第一歩ではないでしょうか。
今、大きな波となっている「人的資本経営」の重要な要素のひとつである、知・経験のダイバーシティ&インクルージョン。ますます重要性を増してきていることを感じます。