バイアスへの理解が管理職層の行動に変革をもたらす
三井化学株式会社様 事例紹介
ダイバーシティを進めるうえで最大の課題は、意思決定層の女性が少ないことが挙げられます。この課題を解決するためには、女性登用の阻害要因となりえるアンコンシャス・バイアスへの対処が欠かせません。
今回は、アンコンシャス・バイアスへの取り組みからマネジメント層の意識変革を促している三井化学株式会社様の事例をご紹介します。
三井化学様では、2019年に新任管理職研修へのANGLE(アンコンシャス・バイアスのラーニングツール)導入を開始され、2021年には部長層にもANGLE受講とワークショップを実施されました。
施策の事務局となる人事部ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョングループの安井直子様と水橋紀恵様に、取り組みの成果についてお聞きしました。
(聞き手:株式会社チェンジウェーブ 上席執行役員 鈴木富貴)
インタビュイー
三井化学株式会社
人事部 ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン グループリーダー
安井 直子様
三井化学株式会社
人事部 ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン グループ
マイノリティインクルージョン チームリーダー
水橋 紀恵様
※肩書は取材当時
トップメッセージで取り組みの本気度を伝え、
行動変容につなげる
国内外で幅広く事業を展開する三井化学株式会社では、いま事業ポートフォリオの変革が進んでいます。イノベーションを加速させるための重要課題として、真正面から向き合っているのが、ダイバーシティ推進です。
「ダイバーシティを阻むものがあるとすれば、アンコンシャス・バイアスである」と、早い時期からバイアスに着目され、2019年にeラーニングツール・ANGLEをご導入いただきました。
当初は新任ライン長研修として開始されましたが、「評価」や「登用」といったバイアスが影響しやすいところに関わる施策にはマネジメント層の理解が不可欠だと判断。2021年には部長層に向けた研修もスタートさせています。
部長層の研修に先立ち、社長(代表取締役社長 橋本修氏)にもアンコンシャス・バイアスを理解していただこうと考えたダイバーシティ・エクイティ&インクルージョングループは、女性管理職比率の現状を示したそうです。
「女性の昇進の遅れはなぜ発生するのか。その原因の一つにバイアスがある可能性をお示ししました。社長は私たちがやりたいことについていつも広く受け止めてくれますし、むしろ積極的にやろうと加速してくれるので、『アンコンシャス・バイアス研修の重要性をメッセージとして研修の冒頭に発信したい』という依頼にもすぐ応えてくれました。トップメッセージから社長の本気度が伝わり、参加者の研修への姿勢も更に一段ギアがあがったように感じました。
ANGLEもメディアで紹介されていますが、世間で一層ダイバーシティや女性活躍推進の必要性が報じられるようになり、『アンコンシャス・バイアス』の認知度も上がっていることも経営層の理解を後押ししているかと思います。」
科学的な裏付けと信頼できるデータが、
受講者の腹落ちにつながる
ANGLE導入とワークショップの実施にあたり、三井化学様からのリクエストは、「サイエンスやデータをもとに解説してほしい」という明快なものでした。目には見えないアンコンシャス・バイアスを正しく理解してもらうためには、数値による裏付けが重要なポイントです。ANGLEのIATは、グローバルでも信頼性が高いとされているテストをベースに心理学の研究者が開発したものであり、受講者のバイアスレベルが可視化できます。また、ラーニングのコンテンツも脳科学をもとにしたものが多く、受講いただいた方々の腹落ちにつながったそうです。
「数値化された自分のバイアス傾向を知った上で『無意識バイアスとは何なのか』に向き合うステップは腹落ちに効果的だという印象があります。」
チェンジウェーブでは、ANGLE受講者のアンコンシャス・バイアスを測定。その他設問も含め、組織にどんなバイアス傾向があるかを分析します。
三井化学様では、測定した数値を「コーポレート」「事業」「生産技術・工場」「研究」「関係会社」などの部門に分けて分析するよう、オーダーされました。他社との比較もさることながら、部門ごとでバイアス傾向に大きな違いがあることが見えてきたからです。受講された方々にとってその結果は「意外」なものではなく、「やっぱり」と納得できるものだったそうです。
「『良い、悪いではなく、バイアス傾向の違いの「背景」に何があるのか』を考えてもらうきっかけがつくれたところに、ANGLEで施策を進めた意義を感じました」
その後、チェンジウェーブが講師を務め、分析結果をもとに、課題の発見とその改善策をディスカッションするワークショップを行いました。参加したマネジメントがアンコンシャス・バイアスに対するご自分の考えを積極的に語り、熱のこもったグループワークが展開される様子は、事務局の皆さんにとって予想以上の驚きがあったといいます。
「それぞれが既に考えを持って取り組んでいることがあったのですが、部長層同士でバイアスをテーマに話しあう機会はほとんどなかったと思います。議論をきっかけにして行動宣言をされたり、忘れてしまわないよう定期的に声をかけてもらいたい、さらに対象を広げて実施した方がいいといった積極的な意見も出て、熱量の高まりを感じることができました。」
三井化学様の取り組み
2019年~ | 新任ライン長にANGLE導入 |
2021年 | 部長層にANGLE導入、部門別のデータ分析結果報告会を実施 |
2022年 | 全部長層がANGLE受講。その後、自社データを分析し、ワークショップを実施 |
バイアスの理解でコミュニケーションが変化
小さな変革の積み重ねがダイバーシティの近道になる
いま三井化学様では、女性管理職数の目標値を掲げて取り組みを進めています。女性登用を踏まえ、部長層は定期的なヒアリングを続けていますが、ここでも目に見えて変化が現れています。
「部長層には2年に渡ってアンコンシャス・バイアス研修を実施したことで、言動が変わった方が増えていると実感しています。例えば、社歴が長い女性の中には『彼女は管理職には興味がない』という思い込みを持たれていた方がいましたが、『こういう育成をすれば登用できる』のではないかと、管理職の意識が変わり、コミュニケーションの取り方に変化が生まれた、というようなことも起きてきました。こういった方々がアーリーアダプターとなって、管理職層の行動変革が広がっていくように、これからも働きかけていきたいと思います。
一方で、女性側の意識改革も必要です。管理職への期待を受けて、個々の課題に向かい合いながら女性はどう立ち上がるのか。
必要に応じてメンターをつけるなど細やかな個別の対応で、キャリア構築の道をひらきたいと考えています」
女性の登用に向けて環境は整ってきましたが、目標とする女性管理職比率の達成には、まだ時間がかかるけれども女性登用の実績を見える化して、優秀な女性人材の獲得につなげたいといいます。
「持続的な会社の成長にはダイバーシティ&インクルージョンの成功が不可欠です。今後はもっと取り組みの幅を広げて、社内全体でアンコンシャス・バイアスへの理解の浸透を図りたいと考えています」
的確な現状把握と明確な目標設定から施策を打ち出し、経営層のコミットにつなげ、行動変革を導き出した事務局の手腕は、お見事のひとことに尽きます。ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン実現は長い道のりですが、こうした一歩一歩から、大きな変化が生まれてくるに違いありません。