チェンジウェーブが事務局として参画している「営業で女性がさらに活躍するための提言」に向けた、異業種合同プロジェクト「エイジョカレッジ(以下、エイカレ)」。
1期から参加していただき、30人以上の”エイジョ”(営業女子)を送り込んでいただいているキリン株式会社 人事総務部多様性推進室長の岩間勇気様に、変革を起こすカギとは何か、エイカレを通して参加者がどう変化していったのか、お話を伺いました。
■エイカレフォーラムを通じて「自分事」になる
―複数の企業が合同で研修をやるのは珍しいと思いますが、岩間さんからご覧になった感想を教えてください。
キリン株式会社 岩間勇気氏(以下、岩間):
最初は戸惑ったり迷惑がったりしている人もいましたが、2日間の合宿を通じて「自分は何にモヤモヤしているのか?」「どういうキャリアを描いていくのか?」など、これまで考えていなかったことを考え、ライフキャリアデザインシートを書き、だんだん心に火が点いていくのが見て取れました。
自分の思いを語り出し、最後に目がキラキラしていく。そんな風に変化していく人の目を見るのは初めての経験で、他の研修にはないことですね。
その結果「自分事」になったからこそ、実証実験のようなきついことも、自分の将来を描き、目の前の道を切り開くために必要なのだ、やらされているわけではなく自分の意志でやるんだ、というように変わっていったのだと思います。
自分事になったからこそ、審査で落ちた人たちは悔しいでしょうし、今期の参加メンバーも現実的な報酬がほしくてやっているのではなく、自分の未来を創り出したくてやっているのだと思います。そう思わせてくれるのも「場」の力ですね。
チェンジウェーブ代表 佐々木裕子(以下、佐々木):
何でそう思わせられているんだと思いますか。
岩間:
私が伴走している今期のチームも「自分事だから」とはっきり言っていました。営業の仕事や社内プロジェクトなど複数の仕事を並行しながら実証実験もやるのは、相当負担が大きいはずです。それでも一生懸命にやるのは、自分の未来のことだと感じているから。
佐々木:
自分事っていうのは大きいですね。
岩間さんはよく「覚悟を決めた女性たちはすごい」とおっしゃっていますが、具体的にどんな感じなんですか。
岩間:
今までは職業人として性別は関係ないと、自分のありのままの何かを強く抑えていた部分が、職業人としてだけでなく、女性として、家庭人として、一個人としての要素を吐き出していいのだと思えたのでしょうね。その重しを外すことで、モヤモヤしている原因が目先の課題であれ、自分のキャリアや社会問題であれ、それに真っ直ぐ向き合えるようになるのだと思います。
男性は生物学的に妊娠や出産でキャリアが断絶する不安もないですし、自分含め深く深くは考えずにそのままで来ている気がしますが、女性は重りを背負っているように見えます。
2日間の合宿最後の宣言シート(今後の決意表明を紙に書いて掲げる)を見て、その重みに負けず頑張っていこうという覚悟を感じました。
悩みやモヤモヤなどの重しをどけて、「抑えなくても大丈夫」と認めてもらえる。それが実証実験の審査を通じて他社にも認められる。
そうすると、それまで目先の仕事でモヤモヤしていた人も、やる気があってバリバリ自分のやりたいことの実現に向かうような別人に変わるのです。
■エイカレという仕掛けの本質は、社外の目があること
―岩間さんからご覧になって、参加者や参加企業に対して、エイカレが寄与できたことは何だと思いますか。
岩間:
エイカレ創設メンバーの1社なので、もともと問題意識はあったのでしょうね。
キリンでは新規採用する女性総合職が4割を超えます。新卒から5年くらいは問題ないとしても、出産したりライフイベントが見えてくる年齢に差し掛かると、優秀なメンバーも挫けてしまったり、辞めてしまう事例があった。後輩女性は先輩たちが辞めてしまうのを見ているし、内勤職になれるかを考えてやる気をそがれてしまう。
女性自身が「営業として働き続けられる」という自信を持ってもらえることも重要ですし、何が課題なのかを洗い出し、解決に向けた楔を打つこともエイカレのメリットです。
エイカレ卒業生には営業を続けている人もいれば、別部門に異動した人もいますが、総じて「営業であること」にプライドを持って、引き続きバリバリやってくれています。
佐々木:
岩間さんが以前「エイカレのプラットフォーム、仕掛けの上にあるから」と「なりキリンママ(昨年グランプリをとったキリンのプロジェクト)」の話をする際におっしゃっていて、事務局一同すごく嬉しかったんですが、「仕掛け」の本質は何だと思われますか。
岩間:
エイカレの仕掛けが優れているのは、営業女性特有の負けず嫌いな部分を良い意味で活かしていること。普段から営業として、自分の行動によって業績が変わるのは身にしみて分かっているので、その本能を刺激するのでしょうか(笑)。
仕掛けは「自分の頭で考える」仕立てであること。自分のモヤモヤをピンポイントで自ら考えて行動し、最終的に「社外の人」に評価してもらうことです。
働き方改革でも何でも、たいていのプロジェクトは自社内で閉じています。自社のトップに認めてもらうのも大きな意味がありますが、それが社外の目から見ても正しい、すごい、というのは価値としては別のものになりますから。
佐々木:
社外に認められることによって、何が決定的に違うんですか。
岩間:
それによって、自社特有の価値だけではなく、より正当性を帯びるのだと思います。特にアワードの決勝は外部審査員がそうそうたる方々。彼らから見て評価されることも非常に大きな意味を持つのではないでしょうか。
さらに、プラットフォーム、仕掛けの上だから閉じていない。人事発案の施策を上から現場に落とすのではなく、現場メンバーそれぞれの思いが内発的に施策に乗ってくるのは、非常に意味があることだと思います。
だからこそ、メンバーにとっては「自分事」になりますし、最初は反対していた上司も「これは全社員に展開すべきだ」と人事部に声を上げていただける予期せぬ結果につながったのではないでしょうか。
―前期までのエイカレを経た施策は、どのように社内展開しているのですか。
岩間:
「なりキリンママ」はいろいろな部門に横展開していくことは決まっています。2期の参加メンバーの「全国の営業拠点でも、エイカレに派遣されなかった営業女性やその上司たちを交えて、社内版エイジョフォーラムのようなことをやるべきだ」と提言も実際に実行しました。色々な世代の女性営業もいるので、ロールモデルになってもらったり上司と一緒に考えてもらったりする場が必要だ、という提言は経営陣にも響きました。
今年も送り出したメンバーがどのような提言を出すか分かりませんが、必ず社長と営業系の役員に提言する場を作ります。
佐々木:
エイカレの事務局は、参加企業の人事部を中心に多様なメンバーで運営されています。事務局について何か感じていることがあれば教えてください。
岩間:
異業種の幅広い視点で共通課題は何なのかを同じ肌感覚で議論できるのは貴重な機会だと感じています。幹事社はダイバーシティ先進企業とされる7社が集まっているので、課題のレベル感が近いですし、将来どんな手を打っておかなければならないかなど、自社や業界を超えた共通課題として同じ目線でワイワイと議論し、方向性を決める。そこに後から参加された各社からも新しい風が吹き込まれる。まさにダイバーシティですよね。
なお、キリンにとってはサントリー様と一緒というのも、飲料業界の実情の近さや同業ベンチマークとしての刺激という点で、有意義に思います。
佐々木:
弊社は変革屋なので、今後もいろんな変革のプラットフォームを仕掛けていきたいと考えています。岩間さんは変革屋にどんなことを期待されますか。
岩間:
変革をする上で、どうしてもボトルネックがあることが多いですよね。みんなが薄々感じつつ触れてこなかった部分に、「触れたらこういう良いことが起きるよ」と実際に見せてくれるのは、誰もができることではありません。変革できる力があり、言える資格がある人だからこそ、ある意味タブーだった問題に手を突っ込めるのだと思います。
それは参加企業である各社だけでは難しいこと。事業への影響も考えてしまい、結果としてタブーであるかのように過去の慣習を守ってしまう。タブーを突破すれば、もっと良い世界があるということを指し示せるのは、佐々木さんをはじめ変革屋であるチェンジウェーブの皆さんなのだと思いますし、その役割を期待しています。
佐々木:
頑張ります(笑)!
エイカレでもそうですが、論より証拠というか、やってみてもらえるような仕掛けを作ることがポイントなんですよね。
岩間:
そうですね。やってみたら意外と数字も良かったり、無理ではないと気づいたり。でも、リスクを取ってまでやるとなると、場が必要なのでしょうね。
そこでリスクを取ってやり切った人にはsomething goodがある。「なりキリンママ」の5人にとどまらず、エイカレに参加したメンバーは、色々なものを得ていると思います。
―今後のエイカレへの関わり方について考えていることがあれば教えてください。
岩間:
「なりキリンママ」に関しては、昨年のアワードで評価していただき、エイカレというプラットフォームだからこそ大きく報じてもらえました。すでに充分な資産をいただいたと思っているので、このプロジェクトを着実に回し、「これはエイカレ発だ」と営業女性発案のプロジェクトであることを入れて、逆にキリンが営業女性全般のあり方に貢献できればと考えています。
一気に世の中に寄与するものではないので、プロジェクトの価値を高め、その高まった価値を循環して世の中に関心を持ってもらえるようにしたいです。キリンがエイカレから価値をTAKEするだけでなく、GIVE&TAKE、両面で関わっていきたいと私は考えています。
今期もおそらく良いものが出てくれば報じてもらう機会もあるでしょうし、経営陣も実行しようと言ってくれるはずです。普通ならクローズドな環境で、各社の役員室で提言して終わってしまうようなことが、三井住友銀行様のあの大きなホールでメディアの取材もある中、そうそうたる企業役員や外部審査員の皆さんの前で提言できること自体、充分に価値があります。
さらなる期待として、アワードで出てくる一つひとつの提言に、多くの声や評価をいただき、力を授けていただけるような場になることを願っています。
■社会に変革を起こすカギは、タブーを突くこと
佐々木:
世の中に変化を起こしていく際のカギのようなものがあるとしたら、何だと思いますか。
岩間:
社会的なボトルネック、タブーのようなものを突くことがカギだと思います。社会的なネックがあるから、そこを突く。それが社会変革なのではないでしょうか。
例えば、チェンジウェーブにデザインも担当いただいたHugマーク(※「ママであること」や「自分の大事にしているもの」があることを、名刺などで表現するためのロゴマーク。詳細はこちら)も、当事者からみた取引先との関係がボトルネックでした。
どこの企業もお得意先あってこそですし、お得意先のリクエストに営業時間外でも応えなければいけないと滅私が徹底される意識が色濃くあり、私も海外赴任経験からの比較論として日本全体の特徴だと感じました。
営業職の必需品である名刺を活用して「ママの働き方」に周囲の理解を得られる環境を作っていけば、ママになったらもう営業は難しいという固定観念はとり払われるし、多様な人が活躍できるようになっていきます。時間制約がある働き方をさりげなくお得意先に伝えられるというメリットがあるほか、労働生産性を上げるための工夫やフォロー体制などを紹介するなど、コミュニケーションのきっかけ作りを狙ったものですが、これはエイカレという場だからこそ初めて言えたことなのだと思います。
佐々木:
政府が民・民の取引慣習だからとトップダウンで言えない、けどみんなモヤモヤと内心思っていて、1社では解決できないこと。そこにエイカレというプラットフォームが機能するわけですね。
岩間:
自社だけでなく異業種の役員もいて、白河桃子さん、太田彩子さんのような第三者の有識者の目もメディアも入るとなると、その報道を目にした人が「自分の企業はこうじゃない。うちでもやってほしい」と考える。大企業だからできることだというご指摘もありますが、大企業ですらできていないわけです。
―そこから少しずつ変わっていくんでしょうね。本日は貴重なお話をありがとうございました。