働き方改革がトレンドワードとして取り上げられる昨今、働き方改革を推進する企業は2017年頃から大幅に増加しました。
国内企業を対象にしたある調査によれば、その目的の上位には以下のようなものが並びます。
- 生産性の向上
- 従業員心身の健康向上
- 従業員満足度の向上
しかし働き方改革推進企業は増えたものの、効果を感じているのは半数以下。さらに従業員満足まで得られているのは3割以下にとどまります。
ではどうすればいいのでしょうか。
チェンジウェーブ代表の佐々木の企業経営者向け講演を抜粋してご紹介します。
働き方改革の難しさ~見聞きする光と影
働き方改革は「長時間労働」にフォーカスが当たることが多いものの、約6割の企業には「ある程度の長時間労働は仕方ない」という雰囲気が残っているのが実情です。
チェンジウェーブでダイバーシティマネジメントの研修を実施した際には、とある企業の管理職の方から「現実では(制約がある)このメンバーは戦略部門には配置しない」という意見も出ました。
働き方改革と言われて久しいですが、企業の中心となって活躍する人には、いわゆる”企業戦士”的な働き方が求められることもまだ多いのです。
また、業種や企業によっては、接待や飲み会など建前上は「自由参加」とはいえ、そこに参加しないと情報が入ってこなくなり、業務遂行に支障が出るケースもあります。
これは「聖域」として扱われ、働き方改革の対象にすらなりません。
リモートワークの義務化や「○○時にPC強制終了」という規定に関しても、自宅ではなくファミレスで仕事する人や、スマホで仕事をする人が後を絶たず、イタチごっこの様相を呈しています。
残業時間を削減する代わりに、時間あたりの労働生産性を上げようというトピックもありますが、売上を上げたい人にとっては限界があります。生産性を上げ、かつ労働時間は変わらないほうが良いと考える人が一定数いるためです。
環境変化が進む中でも、責任の重い役職ほど「自分には働き方改革なんて無理」と考える人が多く、思うように働き方改革を進められない、効果を感じられない企業が増えています。
働き方改革を難しくしている「2つの罠」
推進する企業は増えているのに、なぜ働き方改革は進まないのでしょうか。
佐々木はチェンジウェーブでは、働き方改革を難しくしているのは「固定観念の罠」と「生産性の罠」いう2つの罠が原因になっていると考えています。
固定観念の罠
営業職を例に挙げます。
営業職は一般的に「働き方改革が進みにくい」と言われることが多い職種です。
営業職の女性は10年で9割が、異動や退職によって営業現場から姿を消すというデータもあります。
チェンジウェーブが公表した「エイカレ白書2017」の調査では、男性は「営業職を続けたくなくても、管理職にはなりたい」人の割合が多いのに比べ、女性は「営業職は好きだが続けたくない、かつ管理職にもなりたくない」割合が多いという結果が出ました。
女性で営業職を続けたくない、もしくは続けられないと思っている人が多いのは、長時間労働をはじめとする働き方に困難を感じるのが理由の大部分を占めます。
男性は勤務時間の長さと、営業職を続けたいか否かの相関が薄いのが特徴です。むしろ会社と同質化できればできるほど、管理職になりたい、営業を続けたいと考える人が多く、彼らは頑張ることで出世していきます。
彼らは管理職として後任を選ぶ際、同じように働ける人を選ぶ傾向が強く、それが「成功体験」として繰り返されるようになります。
その成功体験のループから抜け出し、働き方改革を進めるためには、
「本当に長時間労働しなければ売上が上がらないのか?」
「営業に接待は本当に必要なのか?」
と固定観念を問い直す必要があるのです。
固定観念の罠から抜け出すために必要なのは「実験」です。
「ワーキングマザーは毎日定時に帰宅する。子どもの急な発熱で早退することも多く、営業成績が落ちる」という固定観念に対し「それは本当か?」を検証した実験など3つの事例をご紹介しました。
そのうちの1つである「なりキリンママ」はキリン株式会社が実施し、2016年の「エイジョカレッジ・サミット」で大賞を受賞した実験です。子どものいない社員がママに「なりきり」、定時退社や急な早退を体験。業務に支障がなかったばかりかプラスの効果を実証しました。
女性だけでなく男性にも取り組んでもらうことで、ワーキングマザーに対する固定観念が変わる結果になりました。
EIJYO COLLEGE SUMMIT 2016 | EIJYO COLLEGE
本プロジェクトは、「営業で女性がさらに活躍するための提言」に向けた、異業種合同プロジェクトです。2014年度から2年間、株式会社リクルートホールディングス、サントリーホールディングス株式会社、キリン株式会社、日本アイ・ビー・エム株式会社、KDDI株式会社、株式会社三井住友銀行、日産自動車株式会社の7社で各社から選出された営業職の女性社員が約半年間の活動を通じて営業職における女性のキャリア課題…
しかし、このような実証実験を行うのは「怖いこと」と捉えられがちです。実際、事例として挙げた実験を行った方々からも「自分1人だったら絶対にやらなかった」という声も聞かれました。
彼らがなぜできたのかを尋ねたところ、「経営陣のお墨付きが合ったから」と口を揃えます。
「そんなことをやったら売上が落ちる」――経営陣がそう言っているうちは、絶対に働き改革は進まないと佐々木は断言します。
それは固定観念ではないか、実験してみたらどうか、と経営陣が実験を奨励・後押しすることが非常に重要なのです。
生産性の罠
働き方改革において「生産性の向上」はキーワードの1つですが、その功罪も明らかになってきました。
- 働き方改革の推進自体が生む「更なる多忙感」への恐怖
- 短期的な売上利益は、働き方改革をしないほうが確実に上がる
- 徹底的に時間効率を上げないとパフォーマンスが担保できず、人材育成が後手に回る悪循環
- 働き方の「構造」が手付かずのまま「人力」で生産性を上げることによる疲弊感・徒労感
- 生産性を上げればあげるほど、残業代がなくなることによって所得が下がるジレンマ
これらを見ると良いことが何も無いように見え、働き方改革で生産性を上げようと従業員を動かすことは難しいでしょう。
推進していくためには、まず「働き方改革とは何か?」の本質を変える必要があります。
働き方改革は、長時間労働を禁止し、現場の意識改革によって業務効率を上げるものではありません。
経営主導で「価値創造モデル」の構造そのものを変えることなのです。
真の働き方改革を推進するために
昨今、世の中は非常に速いスピードで変化しています。
以下、すでに起こりつつある変化の一例です。
・急速に進む技術進化と競争原理そのものの変化
毎日新聞の調査(2018年1月)によると、国内主要企業121社のうちAIをすでに導入している/具体的な導入計画がある企業は67%。
・「人生100年時代を迎える」人の価値観、生き方の変化(副業解禁など)
既に副業をしている/1年以内に副業したいと答えた大企業従業員の割合は58.4%(NPO二枚目の名刺の調査/2017年1月)。
・大介護時代の到来
厚生労働省の調査では、介護をしながら今の職場で仕事を続けられない、または続けられるか分からないと答えた従業員の割合は77.4%にも上ります。
他にも、営業現場における加速する顧客ニーズの高度化・複雑化や、ミレニアル世代の台頭と価値観の断絶など、さまざまな変化が起こりつつあります。
好むと好まざるとにかかわらず、今後も競争構造の変化と多様性は急速に加速していくはずです。
このような時代背景の中で、真の働き方改革を推進するには、
- 固定観念を塗り替える「実験」
- 価値創造モデルそのものの「アップデート」
を行う必要があります。
では、そもそも働き方改革は何のために行うのでしょうか。
佐々木は、ライフネット生命保険 創業者の出口治明氏や、カルビー元会長 松本晃氏の言葉を引用しつつ、
ひとりひとりの力を磨き、豊かにし、どんな激しい環境変化の中にあっても企業の持続成長を実現しつづけるため
と定義しました。
従業員が現場で頑張るのではなく、経営モデルの変革によってどのように推進していくか。
経営者が本気でそれを信じ、経営の在り方、事業の在り方、組織マネジメントの在り方を変革していく、ということが働き方改革であると佐々木は講演を締めくくりました。