「変革屋」であるチェンジウェーブは、経営アドバイザリーや働き方改革、ダイバーシティ、女性活躍推進などを中心に、さまざまな企業に伴走させていただいています。
今回は金融機関の皆さま向けに「ダイバーシティ3.0時代の女性活躍とは」と題して行った、チェンジウェーブ代表・佐々木の講演内容をご紹介します。
人が変わる瞬間に起きること
チェンジウェーブという会社を立ち上げて、今年でちょうど10年になります。「変革屋」を名乗り、組織や人の支援をしています。
世の中や会社、部署など組織の変化は、全て人の言動や思考の変化から始まります。
会社も国も「人」で成り立っています。みなさん1人ひとりが異なるバックグラウンドや価値観を持ち、集団の中で生きていく。その中での相互作用によって、組織や会社の枠組みはできています。
変革はその相互作用が少しずつ変わり始めることがきっかけで起こります。そして、誰かが新しいことを始め、情熱を持って動き始めることによって、相互作用による変化が起こるのではないかと考えています。
私たちチェンジウェーブは、変化のための行動を起こす方々の支援をさせていただいています。
「ダイバーシティ3.0」と言われて久しいですが、私自身が今、いろんな組織変革や行政変革を拝見していて、「1人ひとりがものすごく立っていく」世の中になっていく足音を感じています。
そこに向けて、こと女性とか、属性をもう少し切り出したときの「活躍」とはどういうことなのか、今日はお話ししていこうと思います。
女性活躍の光と影
多様性推進の必要性について、公的見解ではほとんどの企業が賛同していて、さまざまな施策を講じられています。
ただ、効果が出ているかどうかは懐疑的なのが、日本企業の現在地です。実際に人事や経営者、現場の女性に話を伺うと、「光と影があるな」と感じます。
まず衝撃を受けたのは、ある企業のアンケート結果です。自社の女性活躍について尋ねたところ、6割の男性が「活躍している」と答えた一方で、女性は3割しか「活躍している」と答えていませんでした。
男性は「女性は辞めていないし、きちんと道があって、頑張っている」と答えるものの、女性は「意思決定しているのが全部男性という状況で、活躍していると言えるのか?」という、少し厳しい現状認識があります。
そもそも「活躍している」の定義が違うようだと分かりました。
また、ある企業の女性管理職育成研修では、男性の同僚や上司から「女性の管理職はダイバーシティ枠」と言われたことがあるという声も聞きました。あまり論理的な話ではなく、感情的にいろいろな思惑が動いているのが現実のようです。
反対に、とてもポテンシャルがあると思う方でも、リーダー育成研修の場であっても、「管理職になりたくない」という女性が8〜9割いることもあります。これだけ多様性推進が叫ばれる中でも、なかなか現実は上手くいっていないというのが実感です。
チェンジウェーブでは「エイジョカレッジ」という営業女性のプラットフォームを運営しており、5年間で89社、580名以上の営業女性に参加いただいています。
参加企業はメーカーや製薬業界など「なでしこ銘柄」と呼ばれる企業も多いのですが、それでも2014年のスタート時には入社10年で9割の営業女性が現場から離れていくというデータがありました。
もちろん退職する方もいらっしゃいますが、人事や企画など他部署に異動する女性がどの業界でも多かったそうです。
なぜこうしたことが起きるのかを考え続け、私なりに突き止めた最大の壁が「無意識バイアス」です。
ダイバーシティ推進が難しいのは「無意識バイアス」が原因
人間は1秒に約1100万件の情報を受け取っていると言われます。そのうち脳が意識して処理しているのは40件くらいしかありません。つまり、ほとんどの情報は無意識下にパターン認識で判断するというのが、我々の仕組みです。
このパターン認識が無意識バイアスです。
非常に効率的に情報処理をして判断するという、生命にとって非常に大事な機能です。
「無意識バイアス」と聞くとなんとなくイヤな感じがするかもしれませんが、私にもあるし、ここにいる皆さん全員にあるものです。
脳科学的に言うと、6歳くらいまでの間に完成するそうですが、「世の中とはこういうものだ」という社会概念や体験が積み重なってできていきます。
ハーバード大学とワシントン大学の研究者が開発したImplicit Association Test(IAT)では、自身の無意識バイアスレベルを測定することができます。
チェンジウェーブが開発したe-learningツール「ANGLE」の無意識バイアス編でIATテストを実施したところ、約92%の方が「男性は仕事、女性は家庭」と思っている結果が出ました(N=420)。
この男女の役割分担に関する無意識バイアスがあると、現場で何が起こるのでしょうか。
1つが「機会提供の差と躊躇」です。
女性活躍推進の一環で、管理職候補を出すことになった場合でも、例えば難易度の高いプロジェクトは男性にやらせようということが”無意識に”起きます。
また、「女性は泣いちゃうかもしれない」と、上司が”無意識に”感じていると、厳しいフィードバックは男性だけにするということもあり得ます。
このような形で機会提供に微差が発生した結果、難しいプロジェクトを任せられた男性のほうが、少しだけ経験値が高まります。
経験値が高まる→実績として経験値が上がる→実績があるので「この人のほうができる」と仕事が回る――これがずっと累積していきます。最初はほんの少しの差でも、それが累積して10〜15年経つと「女性のマネジメント候補者がいない」ということが起きるのです。
一方、女性側にもバイアスがあります。
チャンスがあっても手を挙げるのはなんとなく女らしくない、と躊躇してしまうケースも少なくありません。
頑張って出世した女性管理職に対しても「男性と同化して頑張ったに違いない」という無意識のバイアスがあり、実際はそうでない場合も多いのに「そこまではできない」「あの人みたいにはなりたくない」という声をよく現場で聞きます。
これらは無意識の判断ですから、「自分は大丈夫」と思っている人ほど、実は無意識バイアスが強い可能性があるということもお伝えしたいと思います。
無意識バイアスの影響を最小化するには?
脳科学者や心理学の研究者にもヒアリングしましたが、一度作られてしまった無意識バイアスを払拭するのは、非常に困難だそうです。
払拭しようとするのではなく、自分には無意識バイアスが「ある」ということを理解し、その弊害を意識的に最小化できるようにコントロールすることが大事なのです。
その方法は大きく分けて3つの方法があります。
無意識バイアスの理解とコントロール
弊社のツール「ANGLE 無意識バイアス編」を受講いただいた方のセルフチェックテスト(N=450)では、「1歳の子どもがいる優秀な社員に海外出張を打診するか否か」という問いに対して、その社員が男性の場合と女性の場合とでは、大きな差が出る結果となりました。
これが無意識バイアスによる機会損失の1つです。
実際に打診してみないと、その優秀な社員が本当に行きたくないかどうか分かりません。このような過度の配慮は、「幼い子どものいる女性」に対してパターン認識をしていることになります。
無意識バイアスの影響を最小化するには、誰もが無意識バイアスを持っていることを前提に、「もしかしてバイアスかな」と自分で気づき、それが事実かどうかを確認することが重要です。
実験
2つ目は「実験」です。先ほどご紹介した「エイジョカレッジ」でキリングループの営業女性5人が取り組んだケースを例に挙げましょう。
ビール会社は、夜の時間帯の営業が多いと言われていましたが、彼女たちは、定時退社したら本当に営業成績が落ちるかどうか実験をしたのです。
1ヶ月間の実証実験で、残業はほとんどゼロ、60%減でしたが営業成績は変わらないという結果が出ました。むしろ生活の中で気づいたさまざまな提案をお客様にできるようになったそうです。かつ、自分がいないときの対応のために、より密な情報共有をするようになり、チームの生産性も大幅に向上しました。
この結果を受けて、キリングループでは2018年2月にこの実証実験を「なりキリンママ・パパ」として全社展開するというプレスリリースを発表。NHKを筆頭に、さまざまなメディアからの取材が殺到しました。
これは「ビール会社の営業は夜にすべき」というバイアスを打破するような実験をし、本当の意味での多様性推進を促すという良い事例です。無意識のバイアスを打破する方法のひとつと言えます。
意思決定へのインクルージョン
ダイバーシティ=多様性があるだけでは、多様な人たちの意見を取り入れていることになりません。
重要なのは、全然違う視点を持つ多様な人たちの意見を、どれだけ意思決定に取り込めるか? です。
アメリカのノースウェスタン大学の実験(Personality and Social Psychology Bulletin35(3):336-50 · March 2009)で非常に興味深い研究結果があります。
男性のみ・女性のみの学生団体いずれかに所属する学生を500人集めます。彼らを3人ずつのチームに分けて、とある事件の被疑者を特定してもらうというゲームをします。証言や証拠などの情報を与え、何人かの容疑者から被疑者を特定するというもので、学生たちはチームごとに議論して結論を出します。
最初は同じコミュニティの中から3名を選出します。そしてディスカッションの残り時間が30分になったところでメンバーを1人追加します。この1人が同じコミュニティの人なのか、異なるコミュニティの人なのかによって、どれくらい正答率が変わるか? という実験をしたのです。
異なるコミュニティの人が加わったチームのほうが、圧倒的に正答率が高いという結果になりました。
同質のコミュニティでは共有するものが多く、阿吽の呼吸で意思決定できます。しかし、異なるコミュニティの人が加わると説明責任が必要になります。事実に基づいて説明しなければならないので、改めて事実を丁寧に精査します。
その結果、同質のコミュニティでは見落としていたことを発見する確率が高くなり、正答率が上がったのです。
この実験から、多様なチームで意思決定をする際、非常に健全なプレッシャーが生まれることが分かります。
興味深いのは、それぞれに正解している自信があるかを尋ねたところ、同質なチームは自信があり、異なるコミュニティの人が加わったチームは、自分たちの出した結論に全く自信がないという点です。実際の答えは合っているのに「居心地の悪さ」を感じるのだそうです。
この論文は「Pain or Gain」と呼ばれています。多様な人たちと意思決定をするのは非常に面倒です。でも意思決定の精度は上がる、という実証実験です。
同様のデータは幾つもあります。男女だけでなく、異なる年代や国籍の人が混ざるほど意思決定の精度は上がります。
無意識バイアスにおいては、男女の属性だけでなく、年齢や見た目にも非常に大きなバイアスがあります。視覚的に分かりやすい見た目でパターン認識されているのです。
例えば、シニア活用に関しても「高齢者」という見た目に対して、非常に大きなバイアスがあります。「65歳の人に営業は無理だろう」と思ってしまう人は少なくありませんが、事実かどうかは個人差があるはずです。
男女・年齢・見た目・国籍など、さまざまある無意識バイアスをマネジメントしていくことが大切なのです。
ダイバーシティ3.0時代の「女性活躍」
最後に「ダイバーシティ3.0」についてご紹介します。
育児休暇など継続雇用に必要な制度が充実し、採用においても男女の差をなくした時代を「ダイバーシティ1.0」。
女性登用や働き方改革など、機会も平等にしようとしているのが「ダイバーシティ2.0」です。
しかし、女性・男性など表面的なことで管理職にするか否かを決めるのではなく、「個」をしっかり見る、そのために無意識バイアスで覆われていることを取り払うという時代に向かっていくとチェンジウェーブは考えています。これが「ダイバーシティ3.0」です。
無意識バイアスの最も大きな弊害は、機会提供とコミュニケーションの差です。
男女や年齢、役職、立場を問わず、無意識バイアスについて理解し、それを意識的にコントロールしていくことが重要です。
さらに、それらのバイアスを取り払った際、本当の意味で多様な意見を意思決定にインクルージョンできているか。多様な人が意思決定に参画することで、意思決定の精度は上がります。
多様な人が意思決定に参画することで、自分の意見に自信がなくなり、居心地が悪くなります。この「居心地の悪さ」に対し、自分の耐性を強化していくことも今後求められていくのです。
本文中にもある通り、チェンジウェーブはe-learningツール「ANGLE」において無意識バイアスに関するコンテンツを提供しています。
ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひ体験版にお申し込みください。
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