~アンコンシャス・バイアスを糸口に~
女性活躍を進める株式会社明治の取り組み

2024.2.2

2024.2.2 ChangeWAVE

~アンコンシャス・バイアスを糸口に~
女性活躍を進める株式会社明治の取り組み

 

ダイバーシティ推進は、社会にとっても企業にとっても、非常に大きなテーマです。
特に女性活躍推進には、まだ多くの課題が残されています。政府や経団連からは「2030年までに女性役員比率30%以上」というゴールが示されました。ゴールが明確になったことで、課題もはっきりしてきたというのが多くの企業様の現在地かもしれません。

このような状況のなか、株式会社明治様は、構造的な課題をとらえたうえで全社員を対象としたD&Iを進め、中でも女性活躍は階層や時間軸を考えた取り組みで確実に実績を上げられています。その具体的な施策などについて、人財開発部・山口恭子部長にお話を伺いました。
聞き手は株式会社チェンジウェーブグループ取締役副社長、大隅聖子です。

 

明治山口様

インタビュイー
株式会社明治
人財開発部 部長 山口恭子 様
※肩書は2023年11月当時
 
CW大隅
インタビュアー
株式会社チェンジウェーブグループ
取締役副社長 大隅聖子 

 

グローバル競争に勝つには
D&I推進のほかに道はない

大隅
まずは、ダイバーシティ推進を始めたきっかけからお聞かせください。

山口恭子様(以下、山口様)
当社、株式会社明治は、明治製菓株式会社と明治乳業株式会社の統合による再編で2011年に誕生した食品セグメントの会社です。東京2020五輪大会ではゴールドパートナーを務め、グローバルな展開を進めてきました。
その一方で、統合後「1つとなって協力する」=One Companyを目指して走ってきた弊害とも言うのか、社内の同質化が大きな課題となっていました。
これまでの価値観を変えなければ、世界に遅れをとってしまう。それが、D&I推進に舵を切った理由です。

 

役員にも毎年研修
全社一丸でD&Iの必要性を共有する

大隅
D&I推進は、どのような手順で進められていますか?

山口様
「女性活躍」「グローバル人財」「チャレンジド(障害のある方)」「シニア」「LGBTQ+」の5領域から多様性推進を考えようと、「DIAMONDプロジェクト(Diversity & Inclusion Activities〜Meiji’s Open & New Directions〜)」を立ち上げました。
5領域をダイヤモンドに見立ててネーミングしたもので、対象は全社員です。「役員」「管理職」「全社員」の3層に分け、それぞれで施策を進めています。

役員研修は年に1回、役員改選のタイミングで行っています。昨年は、「事業所イクボス宣言」ということで、支社長や工場長に自身のイクボス宣言を表明していただきました。
研修に対する役員の理解度は、100%を達成しています。

大隅
階層別に行うというのは、大事なポイントですね。しかも役員に対して毎年研修されているのは素晴らしい。役員であっても、繰り返しが大切ということですね。
では、管理職の方々に対してはどうでしょう? 現場にいる管理職のみなさまは、多様性推進について腹落ちはしているものの、具体的な行動にはまだ課題があるという声をよく耳にします。

山口様
管理職こそがD&I推進の“要”です。
管理職自身の気づきそして自らが変わる必要性を認識しなければなりません。組織課題を前に、自身は何をするべきか。それを理解して、必要なスキルを習得し、行動変容につなげる。
この流れを研修で理解してもらいます。成果も実感しているようで、研修3カ月のアンケートでは94%が行動変容したと答えています。

 

トップのコミットメントが
施策への理解と納得につながる

大隅
D&I推進の実務担当者から見ると、社内で起きがちなコンフリクトへの対応が難しいと思いますが、明治様ではどうですか?

山口様
そもそも、経営トップのコミットメントがないと推進は難しいと思います。企業戦略にD&Iがなければ、何のために推進するのかがわからない。社内外に向けたトップコミットメントは必須であり、実務担当者はトップとコミュニケーションを図りながら進めることが大事だと思います。

当社では毎年1月にトップコミットメントを発信し、1カ月にわたってD&I推進に関するさまざまなコンテンツを社内に配信しています。
取締役以上のメンバーが、自身の前年の取り組みを振り返り、今年の目標をスケッチブックリレーで語る動画には、社員も注目していますね。

一方、執行役員や管理職クラスでは、総論賛成、各論反対になりがちです。ここは膝詰めで話し合うしかないと思います。経験上、この壁を突き抜けるというのは一筋縄ではない。課題はどこにあって、その点についてどう考えているのか。コミュニケーションをとりながら進めるしかありません。

大隅
本当にその通りだと思います。では、従業員に向けては、どうされていますか?

山口様
全従業員向け研修の一つとして、「アンコンシャス・バイアス ショート動画」というものを社内で制作し、配信しています。自社にありがちなアンコンシャス・バイアスの事例を取り上げてシナリオにし、演じるのも自社の人間です。これまで3話制作して配信したところ、アンコンシャス・バイアス理解の浸透度は97%に上りました

 

キャリア継続の横軸とキャリアアップの縦軸で
女性リーダーを育てる

大隅
アンコンシャス・バイアスは、女性活躍の場面でも課題になるところです。アンコンシャス・バイアスを心理学のテストで測定し、数値化する当社のラーニングプログラム「ANGLE」の調査では、「男性は仕事」「女性は家庭」の結びつきが強い性別バイアスは、8割以上の方に見られます。しかも、性別バイアスの強い方の割合は女性の方が高いという結果でした。

山口様
そうですね。そのため、女性活躍推進では、仕事と家庭の両立で就業の継続を目指す横の軸と、キャリアアップを図る縦の軸、この両軸から考える必要があると思います。
横軸の施策としては、環境整備や同じ課題感を持つ女性社員のネットワークづくりに力を入れています。
一方の縦軸では、階層別に研修を行い、昇格に対する意欲を育てています。

 

アンコンシャス・バイアスを解きほぐせば
女性社員は自身の力で成長できる

大隅
そのなかの一つが、当社が関わらせていただいたステップアップ研修ですね。

山口様
はい。係長への昇格試験を控えた女性社員を対象に、チェンジウェーブさんに研修をお願いしました。
実力はあるのにステップアップを望まない女性社員が多く、昇格試験では女性の受験率が圧倒的に低いのが悩みでした。昇格を望まない理由のなかには、「いまの仕事が好きだから」「管理職になっても業務が大変になるだけ」のような先入観もあり、彼女たちをこのままにしておくのは会社にとっても、大変もったいないことだと思っていました。

大隅
研修では、アンコンシャス・バイアスや「組織を動かす」ために必要になるマインド、スキルについても体感しながら学んでいただきました。
その後、グループに分かれてフィールドワークの課題を設定し、グループワークで対話を重ねながら、社長への提言をゴールとする形で実施されました。
私は壁打ちも担当させていただきましたが、本当に能力の高い方々ばかりでした。本質課題を考え抜き、調査や聴き取りなども実施されたうえで丁寧に提言をまとめ上げていた印象です。

山口様
そうですね。オンライン会議を上手に利用しながら、参加者同士で対話を深めていたようです。
提言を練り上げる過程では、私たち事務局のところに何度も相談に来る熱心さでした。私だけでも6回はフィードバックを行いました。
チェンジウェーブさんからの言葉も胸に響いた様子で、本人たちが殻を破るきっかけになったようです。外部の方から刺激を受けることで、大きな気づきが生まれますね。研修をして、本当によかったと思っています。

最終的な社長提言には、彼女たちの上司にも参加してもらいました。
女性管理職の比率を上げることには、経営層も管理職層もコミットしています。しかし、単に女性を登用すればいいという話ではありません。女性でも男性でも、実力がある人、ふさわしい人が、その役職に就けるようにする。そこに女性活躍推進の本質があるのです。だからこそ、成長している本人たちの姿を社長や上司たちに見てもらい、管理職を目指すにふさわしい女性社員が育っていることを現認してほしかった。それが私の本音です。

大隅
研修に参加した女性社員のみなさんからは、「この会社が好きだから、いまの課題感を解決したい」という強い思いが、ひしひしと伝わってきました。管理職への意識を育てるための研修でしたが、彼女たちのスイッチが入ったのは、昇進や昇給のためではないですね。

山口様
参加者は研修をとおして、「昇格すれば、組織を変える力が持てる」と気づいたんです。研修終了後には、「昇格することで、自分にやれることがたくさんあると感じた」「昇格試験を受けたい」という感想が届きました。研修を行ったからこその成果です。

明治様研修写真

 

男女ではなく、ふさわしい人物の登用こそが
会社の成長には欠かせない

大隅
今後、女性活躍を進めるためには、何が必要になると思われますか?

山口様
「管理職にふさわしい女性が育っていない」という声を耳にすることがあります。ふさわしくないと思われる主な要因は、アンコンシャス・バイアスから来る男女の経験差です。
たとえば営業職の場合、男性社員には売り上げ比率の高い重要なお客様を任せ、女性には軽めの業務を担当させるというような状況が起きているのかもしれません。そこには上司の配慮があるのかもしれませんが、それが経験の差になってしまう。昇格面で男女が横並びになるためには、女性にもタフなアサイメントが必要なのです。

現在、まだ弊社の女性の管理職比率は明らかに低いわけですが、その差が業務の経験で生まれてしまっているのなら、是正することでもっと多くの女性が候補に入ります。重要なのは、男性か女性かではなく、ふさわしい人、力がある人が選ばれること。それこそが、会社が成長するために必要なことだと思います。

大隅
管理職に必要な要素を定め、早いうちから経験を積んでもらうこと。その前提に影響するアンコンシャス・バイアスに留意すること。どれも重要な点だと思います。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

ChangeWAVE

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