【10周年記念対談】変革屋の役割、これからの変革はどのように起こるか

2020.1.10

2020.1.10 ChangeWAVE

2009年に創業したChangeWAVEは、昨年10周年の節目を迎えました。そこで今回は、変革屋の役割とは何か、これからの変革はどのように起こっていくのかなどについて、起業家、投資家、経営者として活躍される株式会社アルファドライブ 代表取締役CEOの麻生要一さんと佐々木の対談をお届けします。

【麻生要一さんプロフィール】

東京大学経済学部卒業。リクルート(現リクルートホールディングス)に入社後、ファウンダー兼社長としてIT事業子会社(株式会社ニジボックス)を立ち上げる。その後、ヘッドクオーターにおけるインキュベーション部門統括として、社内事業開発プログラム「Recruit Ventures」及び、スタートアップ企業支援プログラム「TECH LAB PAAK」の立ち上げに従事。2018年より起業家に転身し、企業内インキュベーションプラットフォームを手掛ける株式会社アルファドライブ、医療レベルのゲノム・DNA解析の提供を行う株式会社ゲノムクリニックを創業。2019年、アルファドライブを株式会社ユーザベースに譲渡し、引き続き代表を務める。NewsPicks執行役員、UB Venturesのベンチャー・パートナーも兼務。

変革屋は、個人と組織の双方に働きかける

――佐々木とは、リクルート時代に受講された研修に出会ったと伺いました。最初の印象はいかがでしたか。

麻生さん:
リクルート次世代経営者研修で、佐々木さんが先生、僕は生徒という立場でした。
最初はとにかく「怖い人」という印象しかなかったですね。だって、仁王立ちで「日銀とマッキンゼーを経て、ソニーの変革室にいましたけど何か?」みたいな感じなんですよ。あんな風にマウントをとられたことがなかったので、完全にトラウマです(笑)。

佐々木:
いやいや、そういう役を演じてただけですから(笑)。
麻生さんの第一印象は「すさまじくバランスの良い人」。研修で出したケーススタディを完璧にやったのは、後にも先にも麻生さんだけです。ただ、リアルに対する感度が高いのに、周囲に説明する際に言葉足らずな部分があったので、もったいないとフィードバックした記憶があります。

麻生さん:
嬉しいですけど、そのときに褒めてくださいよ(笑)。

――麻生さんは、ChangeWAVEが運営を手掛ける「MICHIKARA地方創生協働リーダーシッププログラム」のアドバイザーを務めていただいています。リクルートに勤務されていた間にも数多くの新規事業に携わっておられますが、麻生さんから見た「変革」とは何だと思いますか?

麻生さん:
僕、ChangeWAVEのコーポレートサイトにある交差点のグラフィックがすごく好きなんですよ。人が並んでいて、影に赤い色が付いて、それが一定の方向を向いている――まさに変革を表現しているなと思って。

変革には組織全体の変革と、その中で働く1人ひとりの心に火がついて変わるような個人の変革の両方があると考えています。1人ひとりが同じ方向に向かって、少しずつ動いたり変わったりすること。1人ひとりの中に変わろうとするエネルギーが培われること。その双方が合わさって、組織が変わっていくんだろうなと、あのグラフィックを見たときに思ったんです。


スクランブル交差点
試行錯誤しつつデザインしたChangeWAVEサイトのメインビジュアル

佐々木:
グラフィックを見せたとき、すごく感動してくれましたよね。
変革屋の本質をコンセプトグラフィックにする作業は、自分にとってもデザイナーにとっても、非常に大きなチャレンジでした。

あのグラフィックは「人」が見えていること、それが1人ではなく集団であること、そして交差点なのでそれぞれ違う方向を向いているけど、影だけは一緒の方向を向いているんです。まさに変革を表しているなと思います。

――麻生さんから「組織の変革」と「個人の心に火を付けるような変革」があるというお話がありましたが、その中での「変革屋」の役割とは何だと思いますか?

麻生さん:
まず1人目の種火になるような人が必要です。MICHIKARAでいえば山ちゃん(山田崇さん/塩尻市役所・MICHIKARAの発起人)のような人が皆無の会社や組織を変えるのは、外部からでは無理だと思います。逆に彼のような種火になる人がいれば、その人を起点に波紋を広げていくようなことはできます。

変革には、種火になる人の周りにいる人たちを1人ひとり変えていくアプローチと、大きな組織や会社全体をどの方向に持っていくかの旗振りをする両方が必要です。旗振りに関しては、経営側はロジックで動くので、コンサルティング会社をはじめ、それをできる人はたくさんいます。でも1人ひとりの人間を変える、心に火を付けるのとセットやるのは、なかなか難しいんだと思います。

佐々木:
何が難しいんだと思いますか?

麻生さん:
旗を振るほうは、いわゆる戦略スキルが求められますよね。しかも大企業の方向性について議論に足るだけの何かをやろうと思ったら、なかなか普通の人にはできないというか、高いスキルが必要です。

一方、1人ひとりの心に火を付けるのは、ロジックの世界ではない部分も大きい。寄り添えばいいわけでもないし、厳しく言えばいいわけでもない、刺激を与えるだけでもダメ。人対人でいかに火を付けていくかは、旗を振るのとは全く違うスキルなので、その両方を併せ持つのは難しいだろうなと思いますが、それをChangeWAVEはやっているのかな、と。

佐々木:
両方セットでやらないと変わらないですよね。何かを変えようとするとき、メインストリームの潮目と現場の1人ひとりの気持ちや見たい方向が、全部ゾロ目になっていないと変わらない感覚があって。ChangeWAVEは、ゾロ目になるように順序立てて仕掛けていくことを、チームでやっているつもりです。

人が変わるためのスイッチを押す

麻生さん01

――麻生さんから見た、変革を「仕掛けている」時のエピソードはありますか?

麻生さん:
佐々木さんが怖いっていうのは、ある程度効いていると思います(笑)。人が変わるとき、ものすごくストレスがかかりますよね。そのときに寄り添われるだけでは絶対に変われないと思うんです。優しいと人は甘えてしまうので、一定程度「怖い」というのは効いているかと。

佐々木:
怖い、ってどういう意味ですか(笑)。

麻生さん:
何て言ったらいいんでしょうね……佐々木さんのたった一言で斬られるんですよ。「それってこうじゃない?」って言うときの「こうじゃない?」の切れ味が鋭すぎるというか、もうちょっとオブラートに包んでも良いのでは? みたいな(笑)。でもそれが変革には有効で。

佐々木:
変に伝わってほしくないので、ストレートに言うようにしています。その意味では、意識的にオブラートには包んでいないですね。「ここでハッと気づいてほしい」「グッと思ってほしい」と考えたとき、くどくど言っても、柔らかい言葉で言っても、ちゃんと意図が伝わらないですから。

――伝えるタイミングの見極めはどうやっているんですか?

佐々木:
自分たちが「変わりたい」「まだ充分じゃない」と思っているタイミングじゃないと、ちゃんと伝わらないと思います。

麻生さん:
逆に言えば、変わりたいと思っている人を、切れ味鋭くダメ出ししたり、サポートしたりすることで変えていくことはできるんですよね。

難しいのは、自分では変わろうと思っていない人に、「変わらなきゃ」と思ってもらうこと。外からできることは、環境を与えて、その中で気づきを得て変わろうと思ってもらえるよう、場を設計するくらいしかないのかなと。

佐々木:
私自身は、人は潜在的に「チャンスさえあれば一皮むけたい」と思っている人がほとんどじゃないかなと思っているんですね。変わるスイッチを押せていないだけで。スイッチの押し方は人によってさまざま。だから、場の設計+その人のスイッチの押し方とのマッチングが大事だと考えています。

その人が今どういう状態にあって、何を大事にしているのかと、場の設計が一緒にならないと、スイッチが押せないと思うんです。だからこそ、変な場や変なニーズをマッチングさせないことが大事です。だって「変わりたいと思え!」って言われても、変わりたくならないじゃないですか。「このためだったら変わりたい」と思える場を上手くつくることを意識しています。

これからの変革はどのように起こるか

CW佐々木

――これから先の変革はどのようになっていくと思いますか?

佐々木:
世の中の変化スピードが早いので、変革のサイクルも早く回るんだろうなと思っています。人の力で全部やっていくのは難しくなっていくのでは。じゃあ「ゾロ目に揃える」こと自体を諦めるのか、何か違う方法でできるのか……麻生さんは何かイメージはありますか?

麻生さん:
日本の大きな組織を対象に考えると、世の中の変化が加速していくので、変わらなければならないスピードは早くなっていくと思います。ただ、そのスピードになかなかついていけないのでは。

それは変わろうとする意志の問題でも、手法の問題でもなく、単に人数が多いから。大きな組織は、合意形成にも空気づくりにも時間がかかります。世の中の変化スピードとの乖離がどんどん大きくなっていく中で今後どうなっていくのか、僕も注視しています。

大きな組織において、より早く変化する手法や意識が形成されていくのか、乖離していった結果、かつてのローマ帝国のように崩壊・分離し、新しくスクラップ&ビルドされていく時代になるのか、いずれかだろうなと思っています。

佐々木:
私は2つ仮説があって、1つはテクノロジーで一気にカバーする方法。人数の多さが問題であれば、人手ではなくテクノロジーで人のスイッチを押すのが早いはず。分野やテーマを絞れば、テクノロジーでスイッチを押すのは、できなくはないというのが現時点の実験結果だと考えています。
もう1つは、経営層など意思決定する側、メインストリームが経営陣の刷新や多様な人が加わるなど、もっと早く変わる方法。

麻生さん:
後者は起き得るんでしょうか。40代が社長になるべき、イノベーションを担当したことのない人は役員にしない、役員の半分は女性にしなければならない――組織の外ではいろいろなことが叫ばれていますが、実際にそういう経営体制を取り始めている大企業は、ほとんど無いのではと感じています。

外部の役員登用や女性役員比率の高い会社はいくつか出てきましたが、外から言われる形式要件を満たすためだけにやっているところもあるのかなと。それでも以前よりは良いと思いますが、本当の意味で経営陣が刷新されるようなことは、日本の大企業の構造で起きるのか疑問です。

佐々木:
麻生さんの言うスクラップ&ビルドのように、分解して規模を小さくして、もっと機動力を上げる動きはあり得るかもしれない。いずれにせよ、さまざまな方法論があり得る中で、どんどんトライしていかなければ、今のままの構造では難しいと思います。

ChangeWAVEは熱量や感情も大事だから「人」で変革を仕掛けてきましたが、それでは間に合わないと感じ始めています。今、ANGLEなどITへの投資をしているのは、そういう背景もあります。

麻生さん:
テクノロジーもあると思いますが、僕がここ最近で可能性を感じているのが「コンテンツ」なんです。NewsPicksの役員をやっていることもあって、記事や動画などのコンテンツの力によって人が変わることは確かにあるなと感じています。テクノロジーは無機質ですが、その上にどう体温を乗せるかを決めるのがコンテンツなのかなと思います。

佐々木:
それはすごく共感します。今はソーシャルネットワークもあるので、コンテンツが拡散されるのも早く、1つのコンテンツが非常に大きな影響力を持ちやすい時代なんだと思います。確かにテクノロジーの上にちゃんとしたコンテンツを乗せるのは大事ですね。

ChangeWAVEへのメッセージ

CW佐々木×麻生さん

――最後に、ChangeWAVEへのメッセージをお願いします。

麻生さん:
ChangeWAVEって変革の波ですよね。すごく良い社名だと思っているんですよ。変革は一点で起こるのではなく、それが波になったときに変革になる――それを表現している社名だと受け取っています。変革ってそもそもそういうものだと思うんです。

そして波を起こすためには、最初の震源地のようなものが幾つも必要で、さらにそれを「うねり」にしていくような活動も必要です。ChangeWAVEは、MICHIKARAやエイカレ、他にもいろいろな案件で震源地を作って、そこから波及させていっていますよね。

今の日本には、変わらなければならない領域も、解かなければならない課題もたくさんあるので、いくら楔を打っても打ち切れない状況です。ChangeWAVEは、普通の会社にはできないことができる会社だと思うので、他社にできない新しい領域に、たくさん仕掛けていっていただきたいです。それによって、世の中が変わるキッカケがたくさん作られるはずです。

佐々木:
普通の会社にできないって、どういう意味?

麻生さん:
例えばエイカレ。少なくとも僕にはできません。

営業女子の変革をするには、いろいろなことに気を遣いながら、経営や現場などいろいろなことを分かっている人が、旗を振りながら1人ひとりと対峙しなければならないじゃないですか。普通のコンサルティング会社のおじさんがやってきて講演しても、絶対に変わらないですよね。逆にエグゼクティブコーチが来て、1人ひとりと向き合っても、その人は変わるかもしれないけど、「営業女子」という職種が全体として変わっていく「うねり」にはなりません。

似たようなことをやっている人や会社はあるかもしれませんが、それをインパクトを与える活動にできるのはChangeWAVEしかいない、そんな領域が幾つもありそうだなと感じています。

佐々木:
なるほど。自分たちでも上手く言語化できていないので、周りからどう見えるのか興味があったんですよ。それにしても、そろそろ付き合いも長くなってきたので、来年は関係性をフラットにしたいですね(笑)。

麻生さん:
いやいや、無理です。滅相もない(笑)。

佐々木:
というのは冗談で、麻生さんはすごく変革力のある人だと思うんですよ。変革のときにはファイナンスも大事だし、事業を立ち上げる力も必要で、コンテンツやネットワークも重要です。麻生さんはすごくフラットだし、アウトプットする力もあるので、変革力をギュッと凝縮するとこうなるのかなって。

麻生さんのやりたい変革はきっと大きな波にできるだろうし、ぜひ一緒に変革していきたいなと思います。今日はありがとうございました!

ChangeWAVE

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