チェンジウェーブ/リクシス共催セミナーレポート
働き手が減る時代、
企業人事/組織マネジメントに求められる
介護とダイバーシティ推進の具体的施策
ゲストスピーカー:坂本貴志氏 リクルートワークス研究所 研究員/アナリスト ゲストスピーカー:宇田左近 株式会社チェンジウェーブ エグゼクティブ・アドバイザー ファシリテーター:佐々木裕子 株式会社チェンジウェーブ代表取締役社長 株式会社リクシス代表取締役社長
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日本の人口は減少局面に入っており、近い将来には世界にも類を見ない超高齢社会がやってきます。労働生産人口は不足し、需給ギャップが生まれます。
大変な人手不足社会とも言える中で、人々が高い生産性を保ち、生き生きと働くことができる環境を実現するためには、企業人事に何が求められるのでしょうか。
2023年10月、企業人事/組織マネジメントに求められる役割の変化をテーマに、チェンジウェーブとリクシスが共催セミナーを実施しました。チェンジウェーブは「ダイバーシティ推進」、リクシスは「仕事と介護の両立支援」の視点から、企業人事と組織マネジメントについて語りました。今回のレポートはその一部を抜粋してお伝えします。
日本の現状と2040年の予測:
働き手の急減という構造変化がもたらす課題
現状と未来予測
(坂本様より)
まず、ゲストスピーカーである、リクルートワークス研究所・アナリストの坂本貴志氏より、日本の労働市場が抱える現在の問題が説明されました。
【人口減少】
労働市場は人口減少局面にあります。2020年時点では減少し始めたばかりですが、今後の数十年で相当の減少がほぼ確実視されています。
【低い失業率(人手不足)】
2%台半ばという非常に低い水準の失業率であり、コロナ禍でもほとんど上昇していません。求職者が少ないため、企業の人手不足感も強くなってきています。
【賃金上昇】
人手不足に伴って2010年代半ば以降、賃金が上昇傾向にあります。年収はそれほど上昇していないため賃上げの体感が薄いものの、働き方改革などで労働時間が減っている結果、時給で考えると上がっていると分析できます。
【高い就業率】
女性や高齢者の就業率が共に上昇しています。日本社会は世界にもまれにみる『年をとっても働く社会』になってきているのです。
【労働投入量減少】
2010年代以降、労働時間は年率マイナス0.3%で推移しています。労働生産性は年率0.9%と、他国に比べて遜色ない水準ながら、労働の投入量が減っているためにGDPが伸びていない状況です。
これらの現状を踏まえ、リクルートワークス研究所は『未来予測2040』を発表しています。
2040年、1100万人の労働供給が不足する
(リクルートワークス研究所「未来予測2040」より)
坂本様:
「リクルートワークス研究所のレポートでは、人口減少と人手不足がますます深刻化していくという未来を想定しました。以下でいくつかのデータを共有します」
未来に向けて需要が伸びていく(青線)一方で、供給が足りなくなっています(赤線)。2040年には1100万人の労働供給が不足するというシミュレーションです。
業種別に見ると、運送・建設・生産工程・商品販売・介護など、生活に不可欠な多くの業種で、需給のギャップが生じていきます。
このギャップを放置すると、例えば以下のようなことが起こります。
- 物流→ドライバー不足のため荷物を届けられない地域が発生し、そこには人が住めなくなる。シミュレーションでは4分の1の地域が居住不可能となる。
- 介護→スタッフ不足のため、本来なら週5日受けられた訪問介護の日数が減り、家族が対応せざるを得なくなるなどで生活が破綻してしまう。
- 建設→施工管理者やオペレーター不足のためメンテナンスができなくなり、道路等のインフラ維持が困難になる。
- 医療→医療スタッフの不足により、病院には長蛇の列ができる。
このように、人手不足が深刻な経済への影響を及ぼすことが想定されています。
構造変化に伴って、企業はどう変化すべきか
(坂本様より)
生活の維持に手一杯となり、人材活躍・輩出が停滞し、労働供給制約が一層加速する悪循環を回避するため、提言として4つの策を挙げています。
①機械化・自動化
②無駄の改革
③高齢者の働き
④ワーキッシュアクト(町内会やPTAなど、労働ではない活動で需要を満たすこと)
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従業員を『雇ってあげる』という意識だった企業も、今後は従業員に『選ばれる』側になるなど、関係性が変わりつつあります。
若手人材の確保は困難になり、労働条件や報酬水準が他社より優れていないと、人員の争奪戦に勝てなくなります。育児や介護等、従業員のライフステージの変化に対応する必要も生じます。
無駄な業務を可能な限り減らしてゆくなど、少ない人手で効率的に成果を出す体制構築も不可欠です。あるいは、育児や介護など家庭の事情がある、高齢である、健康の問題があるなどから、フルのコミットメントが困難な人にも仕事を継続してもらえる環境作りも課題です。人手に頼ることはリスクになるため、設備投資などを含めた省人化を検討するべきときにきました。
坂本様:
「働き方改革や賃上げなどは、社会の要請に応えるため・従業員の福利厚生のためといった捉え方をしている方がいるかもしれませんが、おそらく今後は経営戦略になってきます。市場の変化に応じて経営の認識も変わる必要があると考えます」
労働供給制約時代に企業マネジメントはどう変化していくべきか
(チェンジウェーブ・宇田より)
昭和30年代にヒットした植木等さんの歌に『わかっちゃいるけどやめられない』というフレーズがあります。「このフレーズは、そのまま、現在の企業の中にあるのではないか」続いてのスピーカー、宇田氏はこのように口火を切りました。
宇田:
「何か提言されると『知っている』『わかっている』と答えるものの、では行動しているのか、と問うと無言になってしまう。
日本の人口が減少することは多くの人が『知って』います。将来の危機的状況も『わかって』います。ですが、すぐに対策に乗り出し、現状と未来を変えていけるのかというとそれが難しい。『わかっていても変えられない』を脱却するために何ができるのかを考える必要があります」
2000年頃から現在までの約20年間は『わかっていたのに変えられなかった』ために起こった経済的な問題が散見されます。
世界の経済活動では諸外国がGDPを伸ばす中、日本だけが進化のない状態であり、 企業の時価総額も(2020年の日本企業の時価総額トップ10のなかでトヨタ自動車を除いて)軒並み下がっています。
静止摩擦係数の大きい社会を動かすためにできること
『わかっていたのに変えられなかった』現状を変えることは、20年以上静止していた物体を動かすこととも似ています。静止摩擦係数の大きい社会を動かすためには、問題の在りかを切り分けることも大切です。
ガバナンスや事業モデルなどは経営視点でしか変えられません。
しかし人事が主導できることもあります。例えば『変えない人たちを上に登用しない』『変化に受容のある人たちを登用する』などです。
宇田:
「幹部マネジメント層の評価・登用の基準に、インクルーシブ、リーダーシップ、変化への受容力といった、多様性を前提とした要件を加えることも大事です。
また、ホットジョブの機会を早期に提供していくことも重要。これはジェンダーだけではなく外国籍の方やテニュア(若い人)にも同様で、大切なD,E&Iです。
人事としては、これらのことを経営層に理解していただくために、ファクトベースで定量化して述べる必要があります。経営層にくさびを打ち込み、会社自体が変わっていけることにつながるからです」
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(三者対談)
働きながら家族などの介護をする「ビジネスケアラー」が年々増加し、経済産業省の調査では、2030年にはビジネスケアラー発生による経済損失額は約9兆円に迫るとも言われています。そうしたビジネスケアラーへの企業のサポートなどについても3者で議論が深まりました。
佐々木:
「私ども、リクシスで取り組んでいるビジネスケアラー対策についても、人事の仕掛け方が大切だという側面があります。
超高齢化・労働人口減少という構造変化によって、働きながら家族の介護を行うビジネスケアラーが増加します。経産省の調査では、ビジネスケアラーは3割ほど生産性が減ると出ています。女性管理職の7割以上が介護当事者になるなどの数字もあり、物理的・心理的負担も高いです。女性管理職登用はD,E&Iの観点からも推奨されるべきですが、ビジネスケアラー問題と両面の課題になっているようにも感じます。
ビジネスケアラーには明らかに各種サポートが必要なのですが、労働人口の急減と同様に、『構造的にはわかるものの想定されるインパクトが実感しにくい』ために、人事の方々に説明コストがかかっているという特徴があります」
宇田:
「問題を理解することに加えて、解決策について議論を重ねて準備をすることも大切です。例えば6割の時間を働いて6分の6の成果を出す時短勤務者は、たくさんいると思います。一方、10割の時間を働いて6の成果を出す人、または酒の席や休日のゴルフも加えて20働いて成果が6の人もいる。この中で一番評価されるのが20分の6の人だったりする現状があります。
長い時間コミットできる人が評価される状況が当然であると、解決策を考える際にスタックしかねません」
坂本様:
「人手不足社会になるという大前提の中では、人事にはあらゆる人が活躍できるような設計が求められます。設計にも色々あり、一つは、働き方は変えないけれど支援策を多く打つという方法、または働き方自体を軽くする選択ができるなども方法になってくると思います」
佐々木:
「まさにビジネスケアラーに限らず、労働人口が減っていく中では、各人が企業で働く以外にも様々なことを両立していくことが当然です。サステナブルな働き方ができるというモデルがあれば、多くのことが解決できるのではないでしょうか」
坂本様:
「人事部門としては、やはり変化の中で先手を打っていく必要が出てくると思います。少ない人手で効率的に生産する体制を整えていくために、経営も人事も変わっていくことが大切です」
宇田:
「現在直面しているのは、前例のない経営課題の解決です。人事の中だけで閉じてしまわないで、例えば営業部門、例えば管理部門、外部の視点も取り入れて、視野を広げた取り組みを意識していただきたいです。また取締役会の責任も大きい。このような中長期的課題解決は取締役会が主導して考えるべきことではないかと思います。」
人的資本経営の高まりと共に、人事部門の役割はより戦略的に、さらに重要度を増すことは明らかです。
目に見える変化を自社の文脈に乗せてどのように作り、広げていくのか。3者の話からヒントを得ていただけたらと思います。
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